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3 恋ぞつもりて… #4
しおりを挟むああぁ! 何で俺、こんなもの着てるんだ! 走りにくいじゃないか!
「あれ? 兄さーん! どこ行くのっ?」
体育館から飛び出し、渡り廊下に出たところで、ちょうど体育館から出てきた正親と行き合う。
助かった。
「正親、この化粧を早く落としてくれ。気持ち悪い」
「えー? めちゃめちゃ綺麗なのに、もったいないよ。写真撮ってからじゃ駄目?」
「すごく気持ち悪いんだ。頼むよ」
もう、本当に限界なんだ。
「……うん、わかった。じゃあ、こっち来て?」
きっと、俺の顔色が相当悪かったんだろう。さっと顔つきを変えた正親が、俺の手を引いて歩き出した。
四つも年下の弟に大人しく手を引かれて俯いて歩く様なんて、カッコ悪すぎる。けど、この時の俺はそれどころじゃなかった。
一刻でも早く、『カグヤ』を脱ぎ捨てたかったんだ。
「ここで待ってて。メイク落としの道具、持ってくるから」
歩きながら誰かに電話をし、途中で受け取った鍵を使って正親が俺を招き入れたのは、男子バスケ部の部室。
そうか。正親の所属する料理部は学園祭が書き入れ時だから、部室が使えないんだ。悪いことをしたな。
「お待たせ。着替えと荷物も預かってきたよ」
戻ってきた正親は俺のバッグを持っていた。誰から『預かって』きたのかは言われなかったが、わかってしまう自分が嫌だ。
「目、瞑っててね」
大人しくされるがままの俺に、正親の呟きが届く。
「ゆうちゃん、泣きそうな顔してた」
んだよ。泣きたいのは俺なんだぞ。人前で、あんな……“あんなこと”されて……。
「――はい、終わったよ」
「サンキュ。迷惑かけて悪かった」
「兄さん、それを言う相手はチカじゃないでしょ?」
「他に言う相手なんていない」
すっと横を向いた俺の素っ気ない返事に、ふぅ、と小さな溜め息がこぼれる。そうして、「兄さん?」と、俺のバッグが指差された。
「ゆうちゃんから、伝言。『LINE見て。ずっと待ってるから』って」
「知るか」
知るか。
一生、馬鹿みたいに待ってろ。
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