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3 恋ぞつもりて… #2
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――――病に倒れてしまった愛しい伴侶、カグヤ。その病を治す唯一の方法は、天界へ帰すこと。
ですが、カグヤを溺愛する余り、羽衣を隠したまま他の方法を求めてしまうミカド。
苦労して龍神様の神薬を手に入れてきたミカドですが、既に時遅し。
カグヤの病は進行し、命の危機に瀕していることが、わかったのです――――
――――――――――――
比奈瀬の朗々たるナレーションの余韻の中。明るくなった舞台上には、横たわるカグヤと、傍に跪くミカドの姿が浮かび上がる。
「――カグヤ、済まぬ」
つい、とミカドの指が額に伸びる。
「どうしても、お前を手放したくなかった。心弱い私を許してくれ」
真っ直ぐな視線が絡んでくる。髪をひと掬い、口元へ持っていき、愛しげに口づけられた。
「この髪のひと筋、お前の零す吐息ひとつすら、他の者の手には委ねたくないのだ」
するりと頬を撫でる指先は、とても温かだ。
「私以外の誰にも、その微笑みを向けさせたくない。触れさせたくないのだ」
「……ミカド」
「カグヤ! 意識が戻ったのか?」
「ミカド、あなたの顔が見たい。ここに来てください」
「これほど間近におるではないか。私の姿まで見えなくなったというのか!」
悲痛な叫びが、鼓膜を震わせてくる。
「あぁ、許してくれ。お前を手放したくないのだ。だが、お前を失うのは、もっと耐えられない」
息が、苦しい。
「ミカド、羽衣を私に」
「カグヤ! 私から去るというのか!」
「病を癒やしに戻るだけです。また、降りてまいりましょう。あなたに逢うために。必ず」
胸が締めつけられる。痛いほどに。まるで、思考がカグヤにリンクしてしまっているようだ。
「どうか、私のことを忘れないでいてくださいませ」
隠していた羽衣を手にミカドが戻ってくる。その手に支えられ、身を起こした。
「忘れるものか。これほど愛しているというのに!」
「ミカド……愛しいひと」
見えないながらに、愛しい相手に必死に手を伸ばす。
「私にも、あなただけです」
胸元を探り当て、襟元をきゅっと握りしめた。
「愛しています」
愛しいその温もりに、身を託す。
「カグヤ。私にも、永遠にお前だけだ」
しなやかな指先に、顎を掬われて。
全てを委ねた先に、吐息混じりの甘い熱がおりてきた。
イラスト:ちよこさま
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