降る雪の…

冴月希衣@商業BL販売中

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3 恋ぞつもりて… #1

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「あえいうえおあお! あえいうえおあお! あえいうえお……」


「やかましいっ!」


「……あ、おぁっ?」


 天城の後頭部めがけ、投げつけてやった台本が目標に命中。パシーンと小気味良い音を立てて床に落ちた。


「いってぇー。何すんだよ、ナルぅ」


「今頃、無駄な発声練習なんかするな。やるなら外でやってこい」


 鬱陶しいわ。人が座ってる椅子の周囲をぐるぐる回りながら発生練習するな。


「えー? だってさ、後30分で本番なんだよ? ドキドキじゃん! だから、ナルの晴れ舞台を台無しにしないよう、俺、頑張って発生練習を……」


「誰の晴れ舞台だって? 俺が喜んでやってるみたいな言い方するな」


「だってナル、めちゃめちゃ綺麗なんだもん。すっげぇ色っぽいよ? 俺、ナルに見惚れて台詞トチる自信、大ありなんだってば!」


「馬鹿馬鹿しい。つか、ナルナル、うるさい」


「ちょっと天城ぃ? あんたの今の台詞こそ、聞き捨てならないわねぇ?」


「おわっ!」


 ゆらりと背後から湧いて出た比奈瀬に、天城ともども、俺も少しばかり驚かされた。


 鬼気迫る、という表現がぴたりとハマる表情に、ちょっと引いてしまう。


「私の渾身の作品なのよ? あんた、ひと言でも台詞トチッたりしたら許さないわよ」


 半目になった比奈瀬が天城に向け、人差し指をビシッと突きつける。


「そんなことしたら、じーさんしか愛せない呪いをかけてやるんだから!」


「それは困る! じゃあ俺は、ナルがじーさんになるまで、どうしたらいいんだ!」


 ……アホくさ。



――シャランッ


 ぎゃーぎゃーうるさいふたりから視線を外し、軽く、脱力の溜め息をつく。その瞬間、カツラに挿した簪が澄んだ音を奏でた。



 プールサイドでの出来事から、二日。まるで何事もなかったかのように、普段通りの俺たちだ。


 お互い、あの時のことについてはひと言も口には出さない。


 まぁ、俺にしてみれば、助かってはいる。


 何せ、馬鹿みたいに取り乱してしまったからな。あれは、なかったことにしたい。


 何にせよ、この舞台を無事にやり遂げれば、俺はお役ご免。待ち望んだ平穏な日々が、また戻ってくるんだ。


 ここはひとつ、クラスの皆のため、気合いを入れて頑張ってみるか。この衣装を作ってくれた正親のためにも。


 あー、そのついでに。カツラだけじゃなく、簪まで作ってくれた天城のために。


 あくまで、“ついでに”だけどな。


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