降る雪の…

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
上 下
7 / 41

2 織る黄葉(もみぢば)に… #2

しおりを挟む



 ……ああぁ、イライラする。



 『KAGUYA』の稽古に入って、三日目。本読みの後、比奈瀬による各シーンの本格的演技指導が始まった。


 当たり前だが、駄目だしの連続だ。


 ミカド役の天城が、比奈瀬の言う通りにぴったりとすり寄ってくる。それを、俺がサッと避ける。ついうっかりだが。


 その度に、NG。やり直しだ。


 何なんだ、アイツは。気色悪くないのか? 設定とはいえ、男同士で手を握り合ったり、じっと見つめ合ったりするんだぞ?


 比奈瀬も比奈瀬だ。演技指導が進むにつれ、『ここは見つめ合うだけじゃなく、頬に手も添えましょう。そして、カグヤは唇を半開きにして隙を作る』とか言い出して、どんどん台本に余計な描写を増やしてくれてるし。


 全く、信じられない。


 しかも天城のヤツ。その演出をスルッと受け入れて、真面目に演技するとか。そこが、一番理解に苦しむ。


 つーか、男なのに天女だなんて、そんなトンデモ設定をどう観客に納得させるつもりなんだ?


 おまけに俺たちの稽古が始まると、周囲をぐるっと女子たちが囲んでくる。そして、ものすごい圧力で四方からガン見されるんだ。


 恐怖を感じるほどの熱い眼差しに囲まれて演技する俺の身にもなってくれ。俺の平穏な日常は、どこへ行ったんだ?


「――ちょっと秋田くん、聞いてた? 今の話」


「え?」


「もう! しっかりしてよね。もう一度、言うわよ? 今日から、秋田くんと天城は一緒に登下校すること!」


「は?」


 なんだ、そのいきなりの要求は。


「これは、役作りの為の演出家命令よ。あなたたちには、一緒に過ごす時間を増やして、今より親密になってもらいます」


「なっ……おい、比奈瀬!」


「お互い、幼稚舎からの幼なじみなんだし。せっかく同じ町内に住んでるんだから、これを利用しない手はないわ」


 それは今、関係ないだろう!


「取りあえず、今日の稽古はこれで終わり! 衣装も作れない役立たずは、とっととラブラブに帰ってちょうだい。私は忙しいの」


「おい、待て……」
「ハイハーイ! りょーかーい」


 両手でシッシッと、ぞんざいに『帰れ』と手ぶりで表現されたが、ここは譲れない。


 なのに、食い下がって抗議しようとした俺を天城が制してきた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

男色官能小説短編集

明治通りの民
BL
男色官能小説の短編集です。

男の子たちの変態的な日常

M
BL
主人公の男の子が変態的な目に遭ったり、凌辱されたり、攻められたりするお話です。とにかくHな話が読みたい方向け。 ※この作品はムーンライトノベルズにも掲載しています。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

処理中です...