キミとふたり、ときはの恋。【冬萌に沈みゆく天花/ふたりの道】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
上 下
43 / 47
キミとふたり、ときはの恋。【第六話】

ふたりの道 −To the future, with eternity love.−【1】

しおりを挟む



 二日間、しんしんと降り続けた雪は、明け方になってようやくやんだ。
 粉雪から牡丹雪へ、やんではまた降る、を繰り返して積もった雪は、庭一面を白く埋め尽くしてる。
「お庭はともかく、玄関と車庫前だけ雪掻きしとけばいいわよね。お母さん、終わったよー」
「涼ちゃん、お疲れ様。助かったわぁ」
 雪掻きの終了を報告すると、玄関まで出てきたお母さんがマグカップを差し出してくれた。

「ぬるめにしてあるわよ」
 くるんっと丸い持ち手がついたこんもりしたカップは、去年、信楽焼の陶芸体験で私が作ったもの。土っぽさが残る素朴な風合いが、とっても気に入っている。
 模様違いの物を奏人にプレゼントしたから、彼とお揃いだ。

「まさか二日も降り続くとは思わなかったわぁ。大丈夫かな。駅まで、車、出せる?」
「大丈夫よ。昨日の雪はほとんどみぞれ混じりだったし、お昼になる頃には徐々に陽射しで溶けていくだろうしね」
 手袋を外して両手で包んだマグカップ越しに、お母さんが笑顔で請け負ってくれた。今日は午後一番にお出かけの予定がある。
「残雪で底冷えがすごいけど、雲ひとつない晴天に恵まれたのは良かった。こういうのを深雪晴みゆきばれって言うんですって。冬の季語だって習ったわ」
 雪が降り積もった翌朝に、空が晴れ渡ること。
 授業で教わった時にはわからなかったけど、きんっと冷えた空気が肌を刺す感覚の中、澄み切った空を見上げると、どこかホッとする。太陽ってありがたいなぁ、と思う。
 深雪晴という言葉を初めて使った人も、そんな心地から、この言葉を生み出したのかもしれない。
 温かく照らしてくれる存在って本当に嬉しいし、そこにるだけで救われた気になるもの。
 そう考えると、私にとっての深雪晴は、両親とおばあちゃん、奏人やチカちゃんたちを除けば、やっぱり『恩人さん』になるわ。
「おばあ様、またお会いできますね。今日もたくさんお話しさせてくださいね」
 果てなく蒼く透き通った空を見上げ、そこに優しい面影を映す。
「奏人と一緒に行きますから」



 ——今日は、おばあ様のお墓参りに伺う日。
 亡くなられて、ちょうど二年。歳月が流れるのは、あっという間だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キミとふたり、ときはの恋。【立葵に、想いをのせて】

冴月希衣@商業BL販売中
青春
『キミとふたり、ときはの恋。【 君と歩く、翡翠の道】』の続編。 【独占欲強め眼鏡男子と、純真天然女子の初恋物語】 女子校から共学の名門私立・祥徳学園に編入した白藤涼香は、お互いにひとめ惚れした土岐奏人とカレカノになる。 付き合って一年。高等科に進学した二人に、新たな出会いと試練が……。 恋の甘さ、もどかしさ、嫉妬、葛藤、切なさ。さまざまなスパイスを添えた初恋ストーリーをお届けできたら、と思っています。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ 『君と歩く、翡翠の道』の続編です。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission. 表紙:香咲まりさん作画

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら 夢はでっかく宝塚! 中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。 でも彼女には決定的な欠陥が 受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。 限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。 脇を囲む教師たちと高校生の物語。

思い出の第二ボタン

古紫汐桜
青春
娘の結婚を機に物置部屋を整理していたら、独身時代に大切にしていた箱を見つけ出す。 それはまるでタイムカプセルのように、懐かしい思い出を甦らせる。

想い出と君の狭間で

九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
青春
 約一年前、当時付き合っていた恋人・久瀬玲華から唐突に別れを告げられた相沢翔。玲華から逃げるように東京から引っ越した彼は、田舎町で怠惰な高校生活を送っていた。  夏のある朝、失踪中の有名モデル・雨宮凛(RIN)と偶然出会った事で、彼の日常は一変する。  凛と仲良くなるにつれて蘇ってくる玲華との想い出、彼女の口から度々出てくる『レイカ』という名前、そして唐突にメディアに現れた芸能人REIKA──捨てたはずの想い出が今と交錯し始めて、再び過去と対峙する。  凛と玲華の狭間で揺れ動く翔の想いは⋯⋯?   高校2年の夏休みの最後、白いワンピースを着た天使と出会ってから「俺」の過去と今が動きだす⋯⋯。元カノと今カノの狭間で苦しむ切な系ラブコメディ。

勿忘草~尚也side~

古紫汐桜
青春
俺の世界は……ずっとみちるだけだった ある日突然、みちるの前から姿を消した尚也 尚也sideの物語

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...