キミとふたり、ときはの恋。【冬萌に沈みゆく天花/ふたりの道】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
上 下
22 / 47
キミとふたり、ときはの恋。【第五話】

冬萌に沈みゆく天花 —告白—【5一1】

しおりを挟む



「萌々ちゃんのおばあ様のことはチカも知ってるし、お見舞いに行きたい涼香ちゃんの気持ちもね、とっても良くわかる。ご病気なら、尚更」
「……うん」
「でもね、きっと土岐くんは、チカ以上にそのことをわかってると思うんだ」
「うん。私も、そう思う」
 ぽつりぽつり、静かなやり取りが続く。
 チカちゃんは、教室で待っててくれた。
 土岐くんと話し合うべきだって勧めたのは自分だからって言ってたけど、教室に戻った私の頭を撫でてくれた手がとても優しかったから、話し合いを勧めた責任感だけで待っててくれたわけじゃないって、わかる。
 美味しいケーキがあるよって、お家に誘ってもくれたけど、それはお断りして私の家に来てもらった。

「それで、今、敢えて尋ねるんだけど、涼香ちゃんはどう? 土岐くんの気持ちを察すること、涼香ちゃんはしてきた? 察せられてる?」
「私、駄目。全然、出来てなかった。少しも、なんにも気づいてなかったの。私、自分のことばかりで……」
「うん」
「奏人のこと、見えてなかった。表面しか見てなかったの」
「そっか」
 私を奏人のもとに送り出したチカちゃんは、私より奏人のことが見えてた。
 教室に戻った時、「ごめんね」って言われた。「荒療治のつもりだったんだよ」って。沈んだ顔で戻った私に、「余計にこじれる可能性にも気づいてたのに、ごめん」って。

「涼香ちゃん。じゃあ、こう考えようよ。『なんにも気づいてなかった』ことに、今、気づけて良かったって」
「ほんと? 遅くない? 取り返しがつかないようなことになってない?」
「大丈夫。『送っていってあげたいけど、出来ない』って別れ際に言ってくれたんでしょ? 部活があるから駄目っていうより、今日は頭を冷やしたいからって理由だと思うよ」
「そう、かな」
 チカちゃんが断言してくれると心強い。その通りかもって思える。でも、どうしても不安が拭えない。
 だって、チカちゃんが教えてくれた。先週、私がドタキャンしたパーティーで交わされた会話のことを。

 奏人の弟、幸音ゆきとくんと武田茉莉ちゃんの合同お誕生会。せっかく誘ってもらってたのに、私はおばあ様の病院に居ることを理由に欠席した。容態が急変したから、ということもあったけど。恩人さんの傍にいたい、という欲求が最優先になったから。
 奏人のお母様からケーキ作りのお手伝いを頼まれてたのに。
 私、何も考えてなかった。おばあ様の容態以外のことは何も考えずに、『行けなくなりました』って連絡した。謝罪はたくさんしたけど、気にしなくていいと奏人のお母様が優しいお声がけをくださったから、それで済んだと思ってた。
 でも、それで済むわけなかった。

 パーティーに呼ばれてた奏人の幼馴染たちには、私の欠席理由が不可解だったらしい。
 花宮先輩のおばあさんの容態が急変したことで、どうして白藤さんが誕生会をドタキャンするのかって。武田くん、都築さん、瀧川さんが不審がって、少し微妙な雰囲気になってたって。
 それに、幸音くんと茉莉ちゃんは涼香お姉ちゃんが来なくて寂しいって言ってくれてたって、さっきチカちゃんが教えてくれた。
 『恩人さん』のことを知ってるチカちゃんが上手く取りなしてくれたということだけど、お誕生パーティーでの一連のことを奏人が何も言わないから、私は気づけなかった。
 ううん、違う。何も言わないから、じゃない。奏人はそういうことを言わない人だ。

 私が欠席したことでちょっと拗ねた幸音くんをなだめたり、武田くんたちから私の欠席に関して質問が集中したことを、こんなことがあったよ、なんて、わざわざ知らせたりしない。
 ただ、三年前に亡くなった双子の妹、歌鈴かりんちゃんのぶんのケーキもお皿に取り分けた時、涼香お姉ちゃんも一緒に食べれば良かったのにと幸音くんが零したことに、静かに微笑んで頭を撫でてたと聞いたから、やっぱり私のわがままで奏人を困らせてたんだと知った。
 その時の奏人はいつになく寂しげに見えて、どうにも忘れられないんだとチカちゃんが痛そうな表情で教えてくれたから、私は本当に罪深い。

 ——俺は、ずっと我慢してたよ。
 自分勝手な甘えで、大切な人を追い詰めていたんだと、ようやく気づいた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら 夢はでっかく宝塚! 中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。 でも彼女には決定的な欠陥が 受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。 限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。 脇を囲む教師たちと高校生の物語。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

十の結晶が光るとき

濃霧
青春
県で唯一の女子高校野球部が誕生する。そこに集った十人の部員たち。初めはグラウンドも荒れ果てた状態、彼女たちはさまざまな苦難にどう立ち向かっていくのか・・・ [主な登場人物] 内藤監督 男子野球部監督から女子野球部監督に移った二十代の若い先生。優しそうな先生だが・・・ 塩野唯香(しおのゆいか) このチームのエース。打たせて取るピッチングに定評、しかし彼女にも弱点が・・・ 相馬陽(そうまよう) 中学では男子に混じって捕手としてスタメン入りするほど実力は確か、しかし男恐怖症であり・・・ 宝田鈴奈(ほうだすずな) 一塁手。本人は野球観戦が趣味と自称するが実はさらに凄い趣味を持っている・・・ 銀杏田心音(いちょうだここね) 二塁手。長身で中学ではエースだったが投げすぎによる故障で野手生活を送ることに・・・ 成井酸桃(なりいすもも) 三塁手。ムードメーカーで面倒見がいいが、中学のときは試合に殆ど出ていなかった・・・ 松本桂(まつもとけい) 遊撃手。チームのキャプテンとして皆を引っ張る。ただ、誰にも言えない過去があり・・・ 奥炭果歩(おくずみかほ) 外野手。唯一の野球未経験者。人見知りだが努力家で、成井のもと成長途中 水岡憐(みずおかれん) 外野手。部長として全体のまとめ役を務めている。監督ともつながりが・・・? 比石春飛(ひせきはるひ) 外野手。いつもはクールだが、実はクールを装っていた・・・? 角弗蘭(かどふらん) 外野手。負けず嫌いな性格だがサボり癖があり・・・?

弁当 in the『マ゛ンバ』

とは
青春
「第6回ほっこり・じんわり大賞」奨励賞をいただきました! 『マ゛ンバ』 それは一人の女子中学生に訪れた試練。 言葉の意味が分からない? そうでしょうそうでしょう! 読んで下さい。 必ず納得させてみせます。 これはうっかりな母親としっかりな娘のおかしくて、いとおしい時間を過ごした日々のお話。 優しくあったかな表紙は楠木結衣様作です!

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

処理中です...