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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】
冬萌に沈みゆく天花 —告白—【4一6】
しおりを挟む「言えるわけない。もう、この話はこれで終わりにしよう。君に何も心当たりが無いんだから。手、離してくれる? あと、怒鳴ってごめん」
「や、やだっ。お話、まだ終わってない」
駄々っ子だ、私。ここまで拒否されてるのに諦められない。
怒鳴ったことを謝ってくれたから。ショルダーベルトを振り払われるんじゃなくて、私から離すよう促してくれてるから。話し合いの余地があると、思わせてくれるから。
私に失望してても彼女として優しくしてくれてるから、なんとか縋って、私の駄目なところを教えてもらわなきゃ。
「話し合い、したいの。我慢しないで何でも言って? 誤魔化したりせずに、ぶちまけてほしい。私たち、カレカノでしょ?」
「……それを、君が言うの?」
え?
「カレカノって。カレカノだから、こうあるべきだと、そう言うの? 君が?」
奏人が纏う空気が、一変した。
声も雰囲気も、硬質で、とても冷たい。思わず一歩下がってしまって、絶対に離すまいと握りこんでた指からショルダーベルトがずり落ちた。
「俺を彼氏だと、俺の彼女だと思ってるなら、君の言う『話し合い』なんて、そもそも必要ない。それが、どうしてわからない?」
「奏……」
「我慢しないで? 誤魔化さないで? 俺は、ずっと我慢してたよ。でも、そういう自分を見せないように気持ちを誤魔化してた。君に知られたくなかったからだ。君が慕ってる『恩人さん』を悪く言いたくなかった」
恩人さん……おばあ様のこと?
「君の前では、物分かりのいい彼氏でいたかった。病気の進行を、ただ見ていることしか出来ない不甲斐なさも俺はよく知ってるから。恩人の見舞いに行きたいという君の思いを否定したくなかった。見舞いの度に、花宮先輩に家まで送ってもらってると聞かされても、何も感じてないふりをしてた」
あ……。
「君は、俺の女だろ? なら、誰彼構わず無防備にプライベートの隙を見せてくれるな、とも思ってた。でも、それは飲み込んだ」
「……」
「わがままも嫉妬も見せたくなかった。その我慢を、君が否定しないでくれ! 俺は、わかっててやってる。それしか出来ないから!」
気持ちごとぶつけるような荒々しさをまともに受けて、声が出せない。
「涼香」
渡り廊下の端。太い柱に肩を押しつけられて、大好きな声を聞く。
「話し合いは、する。けど、それは今日じゃない」
触れそうなほどに近い唇から、熱い吐息が零れ出てくる。
でも、それだけ。奏人とこれぐらいまで密着したら、いつも身体が熱を持って痺れちゃうのに。今、私の身体は、なんともない。
ただ、上手く呼吸ができない。
言葉も紡げない。無理矢理に口を開こうとすると、今度は胸の辺りに圧迫感を覚える。喉は張り付いたように、動いてくれない。
「泣かないで。怒鳴ってごめん。送っていってあげたいけど、出来なくてごめん」
いっぱい謝ってくれるけど、声が出せないから首だけを振る。
「じゃあ、気をつけて帰って」
最後、そっと頬を撫でながらの声には頷かなかった。じっと、顔だけを見ていたから。
私は目を潤ませていたけど、その私よりもずっと、今までに見たことがないくらい痛そうな表情を奏人が浮かべてたから、ただただ、じっと見つめるしか出来なかった。
今日、何度「怒鳴ってごめん」と謝らせただろう。そうさせたのは私。
『話し合いは、する。けど、それは今日じゃない』
奏人が告げたあの言葉は、もしかしたら——。
不穏な予感に、胸がざわつく。キリキリと痛む。
当たり前のように奏人と一緒にいると信じてた未来が、無くなるかもしれない。
「……っ、そんなの、やだ」
とても怖い想像に身を竦ませたまま、ピロティの向こうに消えようとしてる学ラン姿を見送る。
急激に気温が下がった気がした。奏人と私との間には、凍てつく冬の冷気が分厚い壁を作っている。
青天をバックに舞う、小さな雪片。風花が白いドットを乗せる恋人のシルエットを見つめ、ただ立ち尽くしていた。
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