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キミとふたり、ときはの恋。【第五話】
冬萌に沈みゆく天花 —告白—【3一4】
しおりを挟む「俺らも医師の許可が出るまで観察室の中には入れないが、ここで待っててくれって担当看護師に言われてるから、たぶん、経過次第で見舞いの許可が出ると思う。短時間だろうけどな。だから、良かったらお前も萌々と一緒に待っててやってくれ」
「はい」
デイルームの前。他の患者さんも行き来する廊下で、周囲をはばかって、ごくごく小さな声で私に説明をしてくれていた煌先輩が観察室に背を向けた。次いで、横開きのドアを静かに開ける。音は立てていないのに、窓側のテーブル席にいた二人が揃ってこちらを見た。
「あっ、涼香ちゃん」
「萌々ちゃん」
すぐに立ち上がったその子がこっちに向かってくるより早く、私は足を踏み出す。
「ごめんなさい。寒かったですよね。すごくびっくりしたでしょ。ほんと、ごめんなさい」
「大丈夫。あ、びっくりはしたけど、煌先輩がちゃんと説明してくれたから」
向かい合った体勢で、どちらからともなく両手を繋ぎ、相手の手の温度を感じながら言葉を交わす。私に何度も謝罪してくる萌々ちゃんの声は小さく、か細い。
「萌々ちゃんこそ驚いたよね。怖かったよね」
デイルームには他にも利用者がいるから声を落としてる、という理由と、おばあ様を思っての心痛がそうさせてるんだとわかる。
「連絡くれて、ありがと。おかげで私もここで萌々ちゃんと一緒に待てるわ。だから、もう謝らないでね」
身内でもない私を、おばあ様の急変だからと呼んでくれた。私はそれをありがたいと思ってるんだから。
「涼香。何、飲む? 萌々もお代わり、要るか?」
新聞を持った患者さんと入れ違いに自動販売機の前に立った煌先輩から声がかかった。ちょうど、萌々ちゃんを誘ってドリンクを買おうと思ってたからグッドタイミングだ。
「煌兄ちゃん。涼香ちゃんは抹茶系の甘いのが好みなのよ。抹茶オレか、抹茶ミルク。抹茶系が無ければミルクティーで。私はさっき買ってもらったのがまだ残ってるから要らないよー」
あ……。
「了解。抹茶オレな」
口を挟む隙が無いまま萌々ちゃんと煌先輩の会話が完結して、グリーンティーのラベルが貼られた飲料がガタンっという音とともに自動販売機の受け口に落ちてきた。
「あっ、煌先輩」
いけない。萌々ちゃんの流れるような早口に聞き惚れてる場合じゃなかった!
「あの、お支払いを……」
「要らねぇ。これぐらい、奢らせろや」
「え、でもっ」
「涼香ちゃん、デイルームでは声を抑えてくださーい」
「萌々ちゃん?」
「おら、これ持って萌々とそっちに座っとけ」
「ささっ、こちらにどうぞですよ。涼香ちゃん」
「え? え?」
何も言う間もなく、バッグから取り出したお財布を持ったまま萌々ちゃんに腕を引かれ、煌先輩には背中を押されて窓側のテーブル席まで誘導されてしまった。
お財布と反対側の手に押しつけられた抹茶オレの缶ボトル、わりと熱いわ、なんて思いながら。
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