上 下
11 / 47
キミとふたり、ときはの恋。【第五話】

冬萌に沈みゆく天花 —告白—【3一3】

しおりを挟む



「あの、煌せんぱ……」
「こっちだ」
 ぐっと顎を上げて目線を合わせ、疑問をぶつけかけるも、ちょうど止まったエレベーターが私の出鼻をくじく。
「皆、そこに居る」
 そして、質問の言葉を私が繰り出すより早く、横開きのドアを先輩が指した。ここって……。
「デイルーム?」

 ドアが二箇所ある、広いオープンスペース。ここ、病棟の待合室デイルームだ。ここに入るの?
「あぁ。萌々としょうがその中に居る。親は、いったん家に戻った。で、ばあさんは、あっちの観察室だ」
「おばあ様、あそこにっ?」
 煌先輩が親指で指した先。その病室に急いで視線を向ける。
「観察、室」
 先輩が口にした通り、ドアの右上に小さく『観察室』と表示されてるそこは、ナースステーションのすぐ隣の病室。ここにおばあ様が、とドアをじっと見つめていると、ちょうど中からPCを乗せたカートを押した看護師さんが出てきて、たぶん電子カルテと思われるPC越しに一瞬だけ室内が見えたけど、クリーム色のカーテンしか視認できなかった。

「あの、観察室って? 集中治療室のことですか? おばあ様、そんなにお悪いんですか?」
 ご家族の皆さんがデイルームで待機してるってことは、観察室は家族であっても入室不可ということで。つまり、それほどに容態が悪いってことになる。すごく怖かったけど、思い切ってお尋ねした。
「いや、ICU集中治療室HCU高度治療室とは違う。そこに転棟するほどの急変じゃないが、呼吸の安定が保てていないし、熱も下がらないから、小まめな容態観察のためにナースステーションの隣に移ったんだ。今は、点滴と酸素吸入で様子を見ているところだ」
「そう、なんですか。じゃあ、容態が安定すれば、また元の病室に戻れるんですか?」
「そういうことだ」
「良かった。あ、まだお熱も下がってないし全然良くないけど……でも、ひとまず安心していい?」
「あぁ」
 良かった。
 真っ直ぐ目を合わせて頷いてくれたことで、やっと肩の力を抜くことが出来た。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花霞にたゆたう君に

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【自己評価がとことん低い無表情眼鏡男子の初恋物語】 ◆春まだき朝、ひとめ惚れした少女、白藤涼香を一途に想い続ける土岐奏人。もどかしくも熱い恋心の軌跡をお届けします。◆ 風に舞う一片の花びら。魅せられて、追い求めて、焦げるほどに渇望する。 願うは、ただひとつ。君をこの手に閉じこめたい。 表紙絵:香咲まりさん ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission 【続編公開しました!『キミとふたり、ときはの恋。』高校生編です】

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

サンスポット【完結】

中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。 そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。   この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。    ※この物語は、全四章で構成されています。

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

久野市さんは忍びたい

白い彗星
青春
一人暮らしの瀬戸原 木葉の下に現れた女の子。忍びの家系である久野市 忍はある使命のため、木葉と一緒に暮らすことに。同年代の女子との生活に戸惑う木葉だが……? 木葉を「主様」と慕う忍は、しかし現代生活に慣れておらず、結局木葉が忍の世話をすることに? 日常やトラブルを乗り越え、お互いに生活していく中で、二人の中でその関係性に変化が生まれていく。 「胸がぽかぽかする……この気持ちは、いったいなんでしょう」 これは使命感? それとも…… 現代世界に現れた古き忍びくノ一は、果たして己の使命をまっとうできるのか!? 木葉の周囲の人々とも徐々に関わりを持っていく……ドタバタ生活が始まる! 小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも連載しています!

創作中

渋谷かな
青春
これはドリームコンテスト用に部活モノの青春モノです。 今まで多々タイトルを分けてしまったのが、失敗。 過去作を無駄にしないように合併? 合成? 統合? を試してみよう。 これは第2期を書いている時に思いついた発想の転換です。 女子高生の2人のショートコントでどうぞ。 「ねえねえ! ライブ、行かない?」 「いいね! 誰のコンサート? ジャニーズ? 乃木坂48?」 「違うわよ。」 「じゃあ、誰のライブよ?」 「ライト文芸部よ。略して、ライブ。被ると申し訳ないから、!?を付けといたわ。」 「なんじゃそりゃ!?」 「どうもありがとうございました。」 こちら、元々の「軽い!? 文芸部」時代のあらすじ。 「きれい!」 「カワイイ!」 「いい匂いがする!」 「美味しそう!」  一人の少女が歩いていた。周りの人間が見とれるほどの存在感だった。 「あの人は誰!?」 「あの人は、カロヤカさんよ。」 「カロヤカさん?」  彼女の名前は、軽井沢花。絶対無敵、才色兼備、文武両道、信号無視、絶対無二の存在である神である。人は彼女のことを、カロヤカさんと呼ぶ。 今まで多々タイトルを分けてしまったのが、失敗。 過去作を無駄にしないように合併? 合成? 統合? を試してみよう。 これからは、1つのタイトル「ライブ!? 軽い文学部の話」で統一しよう。

処理中です...