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Lovers -side Shingo-
愛が止まらない。【6】 #1
しおりを挟む「武田?」
名前を呼ばれた。密やかな、甘いテノールで。
「あ……」
そして、小さな呼びかけに俺が反応した一瞬ののち、つと、頬に触れていた熱が消えていく。
「ど……して?」
いきなり離れた熱が、逃げていった感触が名残惜しくて、手を伸ばす。
なんで離れたん?
「土岐ぃ」
今、キスすると思ってたのに。俺、そのつもりだったのに。
伸ばした手で捕まえた。もう一度、これが欲しかったから。この手で触れてもらいたかったから。
「かーくん?」
声に出すのは、名前だけ。言葉じゃない。でも、気持ちを込めた呼びかけだ。これ以外に、おねだりの言葉を俺は知らない。
「全く、困ったヤツだ」
すると、じっと見つめた相手の目元がそれとわかるほどに緩み、柔らかな苦笑が向けられる。呆れ半分の、温かな笑みだ。良かった。伸ばした手は振り払われない。
「あ、っ」
ホッとした瞬間、さっき逃した体温の何倍もの熱量で全身が包まれた。きつくきつく、狂おしく抱きしめられる。
「キス、か? 今すぐ欲しい?」
「うん。すぐ欲しい」
「先にプレゼントを渡そうと思ったんだが。お前の希望なら仕方ない」
「へへっ。俺もクリプレ用意してるよ。でも、やっぱ先にキスしたい」
そんな気はしてた。土岐の性格なら、まずはプレゼントを先にと思って離れていったんだって。
でもさー。せっかく確保できた、ふたりきりの時間だから。
イルミネーションデートの仕上げとして土岐の部屋で過ごせるのは嬉しいけど、まだ高校生で受験生の俺らには、ほんの限られたひと時だけが恋人として触れ合うことが許されてるから。
「俺的には、優先順位はクリプレのほうが下でいい、です」
こっち優先でお願いしたい。
「了解。そのおねだりと希望、途中で撤回するなよ。実際のところ、俺はお前に触れたくて、おかしくなりそうだったんだからな」
固く抱きしめながら落とされた囁きは、湿った熱が耳朶を濡らすのと同時に与えられた。
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