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春宵 -side Shingo-
Cherry × Cherry night #7
しおりを挟む恥ずかしい、恥ずかしい! バッチリその気になってたけど、勘違いだったー!
「う……俺、恥ずかし」
うん、そうだよな。いくらひさしぶりに会えたからって、常識人の土岐がその辺の木陰でコトに及ぶほど舞い上がったりするわけない。
なのに俺ってば、野外エッチどんとこい! 的な盛大な勘違いを披露しちゃって恥ずかしい。きっと呆れられたよ。
「はあぁ……」
それどころか、めちゃ深い溜め息つかれてるよ、今。え? まさか呆れるを通り越して怒ってる? うわわっ、どうしよう!
「あの、今の発言は無し! 無かったことにしてくだされっ!」
「ふっ。なんだ、『してくだされ』って。語尾がおかしいぞ。それから、少し黙れ。騒いでると人目につく」
――チュッ
「えっ?」
「日が暮れて人影もまばらになった。せっかく、こんな風にお前に触れても目立たない時刻になったのに」
「んっ」
「騒ぎ立てていたら台無しだ。俺たちを見守るのは、美しい夜桜だけでいい。そう思わないか?」
「ん……土岐ぃ」
ちゅっ、ちゅっと、軽いタッチで交わされるキスの合間に、蕩けるように甘い声色が同意を求めてくる。
小雨降る運動公園は、もとから人影は少なかった。でも、雨が降っててもトレーニングをする人はそれなりにいて。『学ランの男子高校生が相合い傘』っていうシチュエーションを披露してる俺たちのことを二度見していくランナーたちも実は結構いた。
だけど、改めて見渡してみたら、その人たちの姿はもうどこにも見られない。遊歩道には、俺たちだけだ。
「えーと、土岐? 俺のこと、怒ってないんか? 派手な勘違いでふざけたお誘いしちゃったけど」
どう見ても、ただ甘いだけ。怒ってる風には見えないけど、一応確認してみる。
ふたりきりの夜桜見物&キス。略して、夜桜キス(略す必要あったかな)を堪能したいからこその確認だ。
「ん? さっきの『あの辺の茂みとか木陰とかで、こっそりするならアリ』という、あれか? いや、怒ってない。互いに学ラン姿じゃない“その時”のための言質が取れてラッキー、と思っただけだ」
「え……」
言質? ま、まさか、それって……いつの日か、どこかで野外エッチ敢行! のフラグが立っちゃったってことっ?
「さすがに、制服のまま外でがっつけないだろう? せっかくのお前の要望だが、今日はキスだけで充分だ」
「んっ……ふぁ、っ」
「その代わり、会えなくて焦れていたぶん、たっぷり、な?」
夜の帳が辺りを包み、点在するライトが緩い光を降らせる中。熱誠がこもる瞳と艶声が、俺の心を震わせる。
キスだけ? うん、俺もそれで充分だよ。
すれ違い生活、ほんとに寂しかったんだ。でも、いつも通り元気に振る舞ってた。そうしないと、土岐が心配する。
俺の元気がないと、誰かの口からそれが土岐に伝わるかもしんない。そんな余計な情報、与えらんない。心配かけたくないから、ずっと我慢してた。
ずーっと、へらへらと無理やり笑ってたんだ。
「土岐ぃ……ふふっ、嬉しい」
めっちゃ我慢してたから、そのぶん、今の俺、すげぇ笑顔だ。全力全開スマイル。
「キス、嬉しい。桜は綺麗だし、お前とこうしてくっついてられるし。すげぇたくさん、キスできてるし」
嬉しい。嬉しいっ。
あー、けど酸欠かな? 頭がふわふわする。
「俺もだ。必死で業務を片づけて、ここまで駆けつけた甲斐があった」
幸せすぎて、おかしくなりそう。
だから、いいかな? もう少し、抱き合っててもいいかな? それで、めいっぱい甘えて、おねだりしてもいいかな?
「土岐とするキス、好き。めっちゃ好き。もっともっと、いっぱいしたいよ。ちゅう、したいっ」
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