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In autumn -side Shingo-
もっと汚して #2
しおりを挟む「今、どこにいる?」
「えっ? 家! 家にいるよ。でも、なんで?」
「二分以内で着く。待ってろ」
「にっ、二分って……あっ!」
——ピッ
「切れた」
唐突にかかってきた土岐からの電話は、ほんの数秒のやり取りで呆気なく終わった。
「あっ、玄関! 鍵、開けとかなきゃ! てゆうか、迎えっ!」
でも、その〝ほんの数秒〟で、この後に起こることは丸わかり。『二分で着く』って、『待ってろ』って言われた。うちに向かってきてくれてるんだ。なら、迎えに行かなきゃだ。
スマホを持ったまま部屋を飛び出し、階段へ。そのままの勢いで二階まで駆けおりて玄関へと向かう。一階は父さんの歯科クリニック。その裏から続く外階段だけが我が家へのルートだから、階段下までおりて待ってればいい。
「てゆうか、待ってたいんだよっ」
だって今日は、交換留学の最終日。夕方まで京都の本校で授業を受けてたはずの土岐が会いに来てくれてるのに、家の中でじっと待ってるなんて無理っ。
——ガシャンッ
「うおっ!」
「武田っ?」
外階段の下。急いで開け放った門からクリニック脇の通路へと飛び出した途端、前方から通路へと飛び込んできた影と鉢合わせた。
「おっ、お帰りっ!」
黒い影の正体は、俺よりもずっと荒い呼吸を繰り返してるヤツ。出会い頭の驚きで身を反らせたまま『お帰り』を言うと、ソイツの片腕が俺の肩に回った。
「ん、ただいま」
頭を抱えるようにキュッと引き寄せられ、甘いテノールが鼓膜をくすぐってくる。
「会いたかった。明日まで待てずに、東京駅から真っ直ぐ来た」
「……っ、土岐ぃ」
帰りをずっと待ってた、大好きな恋人。この声と熱も、ずっと待ってたよ?
会いたかったって言われた。
明日、学校で会えるのに、それが待てなかったから家まで来てくれたって。
学内交換留学ってさ、きっとすごくストレスだったと思うんだ。四日間とはいえ、東京校の代表として授業を受けてくるんだから、少しも気は抜けなかったんじゃないかな。
だから、きっと疲れきってるはずなのに、東京駅から直行で俺に会いに来てくれた。
こんな情熱的に、行動で気持ちを示してもらったの、初めてだ。すげぇ嬉しい。
「ふっ……ふぉっ……ふぉぉ、っ」
おまけにだな。ちょうど今、もうひとつ、初めての体験が追加されたとこなんだよ!
武田慎吾。十七歳にして、初体験×初体験!
「土岐? なぁ、マジで寝てんの?」
顔を近づけて声をかけてるのに、返事がない。ソファーの背もたれに頭を預けて寝てるんだ。土岐が。
こんな姿、初めて見る。土岐はさ、どんな時でも隙がない。どれだけハードスケジュールで疲れてても、こんな風に人前で熟睡してる姿なんて見せたことないんだ。
それが、冷たい麦茶を大急ぎで用意した俺がソファーに駆け戻った時にはもう、静かに寝入ってた。超貴重な寝顔を無防備に晒すという、特典つきで。
あー、けど、『寝顔』っつっても、寝てるとはとても思えない怜悧で整った表情ではあるんだけどさ。
一見、座禅を組んでる高僧みたいな清廉な寝顔なんだけどさ。
初の寝顔披露には違いない。やっぱ初体験だよ。俺、感激っ!
どうする? どうする? 滅多にない機会だし、失礼して記念撮影しちゃう? ツーショットで。
駄目かしら。ツーショでも盗撮だから訴えられちゃうかしら? 慎ちゃん、ウキウキ悩んじゃうーっ。
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