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第三章
絶望と希望【4】
しおりを挟むすごいなー、いっちゃんは。チカがネガティブに思うポイントを全部掬い上げてくれる。普段は、勝手気儘な傍若無人キャラなのに。いざという時は、ほんとにかっこいい。
「あと、恋人の夢を全力で応援できる俺が、最上級レベルでかっこいい男ってわけだ」
「何それー。いっちゃんってば、何でもすぐに自画自賛に持っていくんだから」
長い腕に囲われたまま、小さな身体が脱力。
全く、この恋人は。褒めた途端にこれだよー。いちいち自賛アピールを挟んでくるところが残念っ。
柔らかなオーガニックコットンのシャツに顔を埋め、チカは呆れ声を漏らしたが、密やかな笑みもそれに続く。
「ふふっ。でも完全同意だよ。最高にかっこいい彼氏だ。さすが、チカの大好きないっちゃんっ」
「だろう? もっと褒め称えていいぞ。何せ、今から俺はお前の足枷を外してやるんだからな」
「え?」
待って。足枷を外す? そそ、それってもしや、チカと別れるってこと? そんなの、やだっ。
「いっちゃ……」
「お前は俺の希望の象徴だ。が、同時に絶望でもある」
別れの予感に一瞬にして顔面蒼白になったチカに、低められた艶声が降った。
絶望? チカが? どういうこと?
唐突に聞かされた脈略のない言葉が、チカを混乱に陥れる。
自分は壱琉にとって希望であり絶望なのだと言われた。それが、足枷云々とどう繋がるんだろう。どのみち、絶望ということは、自分の渡欧を理由に、別れたいと宣言されているのでは?
嘘だ、嘘だ。嫌だ、嫌だ。嫌だ! そんなの、チカこそ絶望の沼にどハマりじゃん!
「だから、別に頑張らなくていいぞ」
「……え?」
「張り切りすぎるな。そこまで気合を入れる必要はないと言ってる」
「いっちゃん?」
別れの言葉を言われるのではと恐怖に震えたチカの耳に届いたのは、全く違う切り口の言葉。希望であり絶望だと自分を評した後に、『だから頑張らなくていい』がどう繋がるのだろう。
「お前のことだ。海外修業に行くことは決めたが、修業期間を最短で終わらせて帰国しようとか思ってるんだろ?」
あ……。
「そんなもったいないこと、すんなよ。せっかく縁が繋がった修業先だ。何年かかってもいい。気の済むまで、とことん勉強してこい」
「いっちゃん……」
どうして、わかるの? 早く帰国できるように頑張ろうって、チカが今から気を張り詰めてること。
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