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第二章
チカの決意【2】
しおりを挟む「やっぱり言えなかったぁ」
チカって、こんな意気地なしだった?
「このままじゃ、だめだ。わかってるのに、いざとなったら勇気がしぼんじゃうんだよ。うわーん、どうしたらいいのっ?」
自室の隅で頭を抱え、髪を掻きむしる。
壱琉が絹糸のようだと褒め、いつも優しく撫でてくれる薄茶色の髪がボサボサだ。
「あああぁ」
情けない声を漏らしながらチカが視線を伸ばしたのは、PCデスク。綺麗に整頓された卓上の端に、PC作業とは無縁と思われるものが乗っている。シンプルな白い封筒だ。
おもむろに立ち上がり、手に取る。
ドイツ語で書かれたそれは秋田正親宛で、差出人の住所はオーストリアのウィーン。秋に入った頃からやり取りを続けてきた件の最終的な内容が、そのエアメールには綴られている。
これにチカが返信すれば、主なやり取りは終了となる。
「ほんとは、わかってる。あーあーあーあー、いつまでもうだうだと言ってる場合じゃないんだよ。明日には先方にエアメールを送らないといけないし、今週中にはいっちゃんに宣言しなくちゃ」
壱琉への宣言内容。それは、パティシエの修業のため、ウィーンに旅立つこと。
「でも、いっちゃんと肩を並べて歩ける男になるためとはいえ、海外修業は長期だからなぁ。遠距離恋愛、大丈夫かな?」
作家になるという自分の夢を叶えて、壱琉は、日々、邁進している。その壱琉につり合う人間になりたいチカは、大学を中退することを考えていた。
菓子職人になる夢を持つ彼は、祖父の知人の紹介で、既に理想の修業先を見つけていた。
修業先はウィーンの老舗コンディトライ。行けば、最低でも五年、長ければさらに二、三年は現地にとどまることになるだろう。
渡欧の件を壱琉にどう切り出すか。そのタイミングについて、もう、ひと月以上は悩み続けている。
日本とオーストリア、国を隔てての遠距離恋愛がどうなるのか。物心ついた頃から壱琉ひと筋だったチカは、彼への恋心が揺らぐことなどないと断言できるけれど。果たして壱琉の反応は——。
「いっちゃん、チカの決意、どう思うかな? どう言うかな? というか、チカがいない間、あの人、大丈夫かな? 何せ、〝あの、いっちゃん〟だからなぁ。いろんな面で心配。生活能力とか! 黙って歩いてるだけで女性が寄ってきちゃう問題とか!」
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