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第五章
君に、捕らわる 【10−2】
しおりを挟む「土岐くん? あの、怪我してるって……どこ? 大丈夫なの?」
「あぁ、腕をちょっとね。でも大丈夫。大したことないよ。それより、ごめん」
「えっ?」
俺を心配してくれる真っ直ぐな視線に見上げられ、自然と綻んでいた口元が更に綻ぶ。
そして、その気持ちがすごく嬉しいと思うのと同時に、さっきからずっと心に引っかかっていたことを謝罪した。
「あんなところで、突然気持ちを伝えたりして……その、びっくりしたよね?」
あんな人前で、だなんて。実はショックだったりしてないだろうか。嫌な気分に、なってない?
「ううん! すっごく! すっごく嬉しかった!」
繋いでる手に、ぐっと力が込められた。
「だって、私、ずっと見てたからっ。土岐くんのこと、ずっと!」
彼女が言葉を放つ度に、二人の手は上下に揺れる。その気持ちの強さが、一緒に流れ込んでくるようだ。
「初めて逢った時から、ずっとっ。土岐くんだけをずっと! だからっ」
あぁ。もう、どうしよう。嬉しすぎる言葉の羅列に、胸が熱くなる。
込み上げてくる想いのままに、震えるその手を、きゅっと握り込めれば。
「あんな風に告げてもらえてっ。すっごく嬉しかったの! 夢なら、どうか覚めないでって思った」
今度は両手で、更にぎゅうっと握り返して、応えてくれた。
「それ、俺も同じことを思ったよ」
「え?」
いつの間にか膝を折って。彼女と目線を合わせていた。
「俺の気持ちに応えてくれた時、『夢なら、覚めないでくれ』って」
「あ、一緒? 同じこと、考えてたの? 私たち」
「一緒だね」
「嬉しい」
握り合った手に、もう一度きゅっと力が込められる。
「あぁ、俺も。すごく嬉しい」
同じ強さで、俺も握り返す。
「ふふっ」
お互いに小さく笑いながら、自然に距離が縮まっていく。彼女の笑顔が近づいてくる。いや、俺が近づいてるのか。お互いの視線が、強く絡まったのを感じた。
「白藤さん」
気がつけば、名前を呟いて、空いたほうの手は彼女の髪に指を通していた。
綺麗な榛色の瞳から、目が離せない。もっと近くで、見せて?
「と、と、と、と、土岐くんっ? あ、あ、あのっ!」
「んー? 何?」
大きく瞳を見開いて、アワアワしてる様も可愛らしい。
「あ、あ、あのっ。め、眼鏡!」
……え?
「眼鏡は? いつになったら、眼鏡かけるのっ?」
……あぁ、そういえば。サングラス、かけてなかったな。この子の足が気になってポケットに突っ込んだままだった。
普段かけてる眼鏡も、実は持ってるんだが、今までかけるタイミングがなかったしな。でも――。
「眼鏡って、どっち? サングラスのほう?」
なぜ、今、眼鏡を気にしてるんだ?
「えーと、いつもかけてるほうの。縁にチェック柄が入ってる……」
あぁ、そっちか。でも、フレームのチェック柄なんてよく知ってるな。ごく薄い色なのに。
それだけ、俺を見ていてくれたってこと、か? くすぐったい気分って、こういう感覚なのか。初めて知った。
「土岐くん、学校ではずっと眼鏡かけてるから。えと、その……今、私のこと、ちゃんと見えてるのかなって。ちょっと心配……あ!」
いかにも、余計なことを言ってしまったかのように、口元に手を当てた姿が可愛い。
そんなことを思ってたのか? 俺に、自分を見てもらいたいってこと?
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