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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?

美味しい定番 #6

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「武田、あっちの片づけ終わったぞ。そろそろ行くか?」

「あっ、うん! もう、食い終わるよっ」

 三切れめのアップルパイをたいらげてる途中、土岐が迎えにきた。片づけは一色と自分がやるから、高階と俺は座ってパイ食ってろって言われたんだ。

「ちょっと待ってて。これ、洗ってくるから」

 残りのパイを口に放り込み、急いで咀嚼しながら食器類を持って立ち上がる。バーベキューの片づけは全部やってもらったんだから、これくらいは自分で洗わなきゃ。

 一緒に食ってた高階は、ついさっき一色が迎えにきて先に引き上げていったから、洗うのは自分のぶんだけだ。

「花火っ、花火ぃー。たっのっしみぃーっ」

「ご機嫌だな。そんなに楽しみか?」

「うん、もちろん!」

 少ないから食洗機を使うまでもない。洗った皿とグラスを丁寧に拭き上げる俺の横に並んだ土岐からの問いに、全開の笑顔で元気よく返した。

 だって、その通り。俺、すんげぇ楽しみにしてたんだ。

「ふっ、俺もだ。お前、浴衣は持ってきたか?」

「うん。それも、もちろん! 俺、あの浴衣を着るの、すっげぇ楽しみにしてたよ?」

 俺とおんなじ気持ちを返してくれた土岐の穏やかな笑みが嬉しくて、さらにニカッと笑顔を重ねて答えた。

 そうだよ。俺ら、今夜の花火大会は、揃いの浴衣で観賞するんだぁ。

 土岐が揃いで作ろうって誘ってくれてさ。一緒に生地を選んで、同じ柄の色違いで仕立ててもらった浴衣なんだぜ? サーフパンツも浴衣もお揃いなんて、俺ら、確実にラブラブじゃん?

 嬉しくて、堪んねぇよ。笑顔以外の要素なんて、どこにもねーわ。

「お前、何だ、それ。誘ってるのか?」

「へっ? ……んにゃっ?」

 えっ、何、なにっ? なんで?

 噛まれた。噛まれたよ!

 甘いテノールと、整った怜悧な顔が急に近づいてきたかと思ったら、上唇にカリッと歯が立てられたんだ。

「気をつけろ。こんなところにパイの欠片をつけてたら、誰だって『舐めてください』って誘われてる気になるぞ」

 真剣な表情で注意してくる土岐の言葉の内容が、イロイロおかしい。

 俺の唇にアップルパイの皮の欠片がついてたらしいことは、わかった。

 けど、だからって、パイの皮に歯を当てて、こそげ取るみたいに唇をカリッてしなくてもよくね? 例えば、指でササッとはらってくれるとかさっ。

 そんで、仕上げのようにペロンって舐めていく必要も、全然ねぇよな?

「しかも、そんな無防備な可愛らしい笑み、プラス、間抜けなパイ唇のコラボなんて見せつけてきて。お前、どういうつもりだ? それを見たその他大勢の男どもが、こぞってお前によろめいたりしたら、どうする。もっと自覚を持て。馬鹿」

 土岐にしては珍しい、たたみかけるような早口。最後までちゃんと聞いたけど、意味わかんねぇ。

 『可愛らしい』と『間抜け』のコラボって、何? そもそも、その他大勢(しかも男ども)が俺によろめくわけ、ねぇじゃん。どエロい色気を放ってる土岐なら、ともかくさ。

 けど、どれにも突っ込むのはやめておいた。

「んっ……これから、気をつける。ごめ……っぁ」

「そうしてくれ。気が気じゃない」

 二階へと向かう階段を上りながらもキスを続けてくる恋人に応えていて、それどころじゃなかったから。


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