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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?
嫉妬と恋と花火 #7
しおりを挟む「さて、そろそろジュースのお代わりを頼もうか」
激しくむさぼられていた唇が離れ、バルコニーの窓に強く押しつけられていた背中の圧力が弱まった。土岐が、俺から少し身を引いたんだ。
「あっ、お代わり? どっち飲む? 俺、作ってくるっ……うわっ」
「どこへ行く。ジュースなら、ここにあるだろう?」
「えっ?」
梅ジャムサイダーのお代わりを飲みたいからキスを中断するんだと思ったから、慌てて立ち上がろうとしたんだ。なのに、空になったグラスを持った手が土岐に掴まれた。立てない。
「忘れたか? 俺、さっき言ったよな? 『ここで二杯めも飲みたい』って。——武田、これ飲め」
「んっ」
そんで、強引に口にあてがわれたストローから飲みかけだった俺のレモネードを飲むハメになったけど。土岐が「飲め」って言うから、わけわかんねぇまんま、ちゅうっとそれを吸った。
ゴクゴクと、レモネードを嚥下する。その俺の喉に長い指が触れる。肌の上を、つうっと滑っていく感触を俺に与える相手を、喉を鳴らしつつ横目で見ると。
「ん、飲んだな」
目を細めた恋人が、とろりと笑った。
「ラブラブドリンク・梅はちみつレモネード。俺は、お前の舌で味わいたい」
艶やかな笑みが、ランタンが照らす薄闇でひらめいた。吐息が零れるような、ひそやかな囁きとともに。
うあぁー。コイツさー。『ラブラブドリンクを味わいたい』んだってさ。しかも、普通に味わえばいいのに、俺の舌で……。だからさっき、強引に俺にレモネードを飲ませたんだな。
これさ。一歩間違えたら、ドン引き必至の変態発言だよなー。あぶねぇ香り、プンプンっ。
けど、土岐ってば。日頃の行いが良すぎるせいか、ドン引きどころか、まるでお経を唱えてる美形修行僧のような涼やかな印象しか残してない。
くっ! なんて、お得なヤツなんだ! なんか悔しいっ。とんでもない恋人だ!
そんなお得な修行僧が俺の髪をさらりと指の間に挟み、くりくりと遊ばせながら、じっと見つめてくる。無言で。
ただ、背中から腰へと滑りおりていった手に、心なしか力がこもったのを感じた。
だから、黙って目を閉じる。唇を薄く開いて、土岐の唇が再び落ちてくるのを待つことにする。
土岐、来て?
「……ん、っぁ」
ひと呼吸もしないうちにそれは簡単に与えられ、濡れた舌先が軽く開けた唇の合わせ目をそろりとなぞってくる。
その熱を迎え入れるために顔を傾けると、自然と唇が深く重なった。ゆっくりと身体が倒され、バルコニーの床に置いたクッションに頭が沈んでいく。
「……ふぅ、っ」
覆い被さってくる土岐の髪の向こうに、星々の白い明滅が見える。聞こえてくるのは、俺たちの息遣いと潮騒だけ。
「んぅ……っ、ん」
ぬるぬると、舌が擦れ合わされる。ただそれだけで、じんと脳が痺れた。
「甘いな。お前の舌、どうなってるんだ。はちみつよりも、ずっと甘いぞ」
「はぁ、ぁ……土岐ぃ」
あぁ、堪んない。気持ちいい。
なぁ、土岐? お前のキスさ、すっげ気持ちいいよ。腰が抜けそうなほど、だ。
アイスクリームをペロリと舐めても。キャンディをコロコロと舌の上で転がしても。こんな、ふわふわと身体が浮くような感覚にはならない。
土岐と舌を触れ合わせ、熱を交換し合うこの時だけが、俺に蕩けそうな快感をもたらしてくれるんだ。
「ぁ、土岐っ」
甘い快感に思考を覆い尽くされ、感極まって、固い背を抱きしめる手に思いっきり力を込めた、その時。
——ドーンッ!
土岐の肩越しに、光の花がパァッと赤く開いた。
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