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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?
嫉妬と恋と花火 #5
しおりを挟む下で待ってるからって言い残して俺が部屋を飛び出した後、下駄を持ってなかったことに土岐が気づいてくれて。階段を駆けおりる俺に声をかけようとしたら、俺が秋田の名前を呼んだとこだったらしい。
んで、そのまんまキッチンまで追いかけてきたから、土岐は半裸姿だったんだ。
「あのさ、土岐? 色々、嫌な思いさせちまったこと、ほんとごめん。俺、お前のことがすっげぇ好きだからさ。逆にわかんねぇんだよ」
謝らなくちゃ。謝って、説明しなくちゃ。
「俺の『好き』とお前がくれる『好き』には差があるって、ずっと思ってたからさ。何でも完璧なお前に飽きられないように頑張らなくちゃって、それしか考えてなかったからさ」
俺が秋田にこっそり電話してるってだけで着替えを放り出して追いかけてきてくれるほど、お前が俺のことを想ってくれてるなんて。そんなこと、夢にも思ってなかったんだよ。
おまけに、俺となら『何をしてても楽しい』なんて嬉しい言葉まで聞かせてもらえて、俺、どうしようっ。無表情仮面の下でウキウキしてくれてたとか、激萌えだぜっ!
「俺ら、なんつってもマイノリティな男同士の恋人なわけだしさ。唯一、お前のことを相談できる秋田に。俺の『恋の予言者様』に頼るしかなかったんだよ。ほんと、ごめんな?」
だから、もう秘密にするのはやめる。
予言者様への相談は、これからはフルオープン。秘密なしのスッケスケだ。
「土岐さぁ。先月のお前の誕生日に俺が贈ったプレゼント、あったろ?」
「あぁ。『幾何学を美味しくいただくための前菜』か?」
「そう、その本! 俺さ、今年の誕プレ、何を贈ろうかって、すっげ悩んでたんだよ。なんたって、恋人同士になれて初めての誕生日じゃん? 気合い入れたモンにしたくてさ。そん時に、『土岐くんにはこれがイチオシ』って、秋田に勧められたのが、あの数学書だったんだ」
「秋田が……?」
何でもフルオープンにするついでに、今までの予言者様への相談のことも暴露しとこう。そう思って、秋田が一番ピンポイントでナイスアドバイスしてくれたエピソード。土岐の誕プレの話をすることにした。
もうじき花火大会も始まる。それまでの繋ぎのつもりで。
「んでさぁ? 実は俺、秋田にアドバイスもらったものの、数学書が誕プレでいいんかなって半信半疑だったんだよ。しかも、あのトリッキーなタイトルの本だろ? でも実際に贈ったら、お前、すっげぇ喜んでくれたじゃん? アレ、びっくりだったよー」
「秋田が、そんなアドバイスを……そうか」
「うん、マジでビビるくらい驚いたわ。『数学書だぞ? めっちゃ喜ぶってマジか、土岐! つか、なんで数学書のタイトルがわかってたんだ。マジか、秋田!』ってさ」
「そういうことか」
「そんでさ。お前が喜んでくれただけですんげぇ嬉しかったのに、プラス、その後にめちゃ濃厚なキスタイムが追加されてたじゃん? さらに幸せだったんだよー。お前の誕生日なのに、俺得になってんだもん」
「俺得……」
「そう、俺得っ。で、秋田のアドバイスにハズレはないって確信しちまってさ。それ以来、俺ん中で秋田は『恋の予言者様』になったんだよ。だから、予言者様への相談を続けたいから、そのことをお前には秘密にしようって決めたんだ。色々、ごめんな?」
土岐の誕生日なのに俺が幸せっていう、ちょっとおかしなオプションつきだったのも、ぜーんぶ秋田のおかげだ。アイツには、すげぇ感謝してる。
けど、『俺のことなら、俺に聞け』って土岐が言うから、もうフルオープンだよ。
「武田?」
秘密を全部暴露して、さっぱりスッキリ。気分よく夜空を見上げたその時、低めた声とともに、頬に指が触れた。
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