花霞に降る、キミの唇。

冴月希衣@商業BL販売中

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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?

嫉妬と恋と花火 #4

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「えーっとさ、秋田ん家に泊まったのは、先週なんだぁ。俺、どうしても、お前を喜ばせたくてさ」

「俺を?」

「うん。土岐はさ、いつも俺に色々してくれるだろ? 数学教えてくれるし、バスケの自主練も付き合ってくれるし。他にも、なんだかんだ相談に乗ってくれるし。でも、俺はなんも返せてねぇじゃん? だから、俺もお前のために何かしたくてさ」

「それで、『慎ちゃん特製ラブラブドリンク』に行き着いたのか?」

 こくんっと頷くと、「ふっ」と笑った恋人がストローに口をつけた。土岐が手にしているドリンクは、梅ジャムサイダー。もちろん、作ったのは俺。

 ストローが氷に当たって、シュワッとサイダーの泡が弾ける。土岐の喉がゴクンっと動いて、俺の作ったドリンクが嚥下えんげされていく艶めかしい瞬間を、自分用の梅はちみつレモネードを片手に見守る。

 見守るというより、見惚れる、だな。『艶めかしい』って表現、ばっちり合ってると思うんだぁ。土岐ってば、ただドリンクを飲んでるだけの仕草なのに、どこか色めいてんだもん。

 ちょっと、ずるいっ。そんな感想とともに背もたれに身体をグイッと預け、感嘆の溜め息をつく。

「はぁ……」

 背を預けてたクッションが、俺の体重でグッと大きくへこんだ。

「どうした? やっぱりビーチに行きたかったか?」

「あっ、ううん。違うよ。ここからでも眺めはすげぇいいし、大丈夫っ」

 俺の溜め息の理由が、勘違いされた。隣で俺と同じようにクッションに身体を預けてる土岐の気遣いの表情でそれがわかったから、慌てて笑顔を作る。

 ごまかしのためじゃない、本気の笑みだ。

 秋田との電話を終えた俺に、土岐はふたつの提案をしてきた。ひとつは、梅ジャムサイダーと梅はちみつレモネード。どっちも作ってほしいってこと。

 もともと、土岐が梅味のものが好物だからって理由で手作りした梅ジャムだから、秋田に教わったレシピを両方とも披露できて俺には得でしかない提案。これはウハウハでオッケーだ。

 ふたつめは、ビーチに出るのをやめて、このゲストルームから花火を眺めようって提案。せっかくのお手製ラブラブドリンクだから、ここでゆっくり味わいながら花火を楽しもうって言ってくれたんだ。

 俺的には、ビーチの休憩所でも、この別荘でも、どっちのキッチンでもドリンクを作るのには大差はないし。土岐が「ここで二杯めも飲みたいしな」って言ったから、ウキウキで了解だ。

 で、俺たちは今、ゲストルームのバルコニーにクッションを敷いて並んで座ってる。

 バルコニーっつっても、かなり広い。そもそも、ピアノまで置いてあるゲストルームだし。

 木製のローチェアも置いてあるんだけど、赤ちゃん連れの来客でも安心できるよう、バルコニーの床面にはクッションパネルが敷きつめられてるから、俺たちは床にじかに座ることにしたんだ。

 オーシャンビューだし、ビーチに出なくても絶好のビューポイントだ。

「武田?」

「へっ? 何?」

 花火の打ち上げは、十分後。開始が待ちきれなくて時刻を確認した直後、隣から呼びかけられた。

「お前、さっき、俺のために何かしたい。自分は何も返せていないから、と言っていたが。それは間違ってるぞ」

「え?」

「お前こそが、俺に色んなものを与えてくれてるんだ。俺は、お前となら何をしてても楽しい」

「土岐……」

「だから、例え俺とのことでも、秋田にばかり相談するな。アイツが頼りになるヤツだってことはわかってるが、俺のことなら俺に聞け」

 静かで、ひそやかな口調。けれど、とても熱い言葉。それが、真剣な表情で見つめてくる相手から放たれた。

 潮風がさらさらとその髪を揺らしている濃茶色の髪の持ち主からの、真っ直ぐな要求。

 えーとさ。これって……たぶんアレ、だよな?

「土岐? 今のってさ。俺、もしかして、お前に気分悪い思いをさせてたってこと、かな?」

 ストレートに『ヤキモチですか?』とは、さすがに聞けない。でも、ちゃんと確認しとかねぇとって思った。

 いくらサプライズのためっつっても、そのせいで土岐が嫌な思いしてたなら謝らないといけねーもん。本末転倒じゃん。

「相談するくらいなら、いい。が、俺の知らないうちに誰かが家に泊まりに来たり、お前が泊まったりとかいうのは、今後は無しにしてくれ。でないと、さっきみたいに誤解して我を忘れることもあるからな」

「あ……うん。ごめん」

 『さっきみたいに』、か……。

 土岐が口にしたその言葉で、俺のスマホを取り上げて秒速で電源オフまでやってのけた姿が、まざまざと思い出された。

 土岐ってば、あん時、『我を忘れて』たんか。全然、わかんなかった。すげぇ冷静な無表情にしか見えなかったけどなー。実は、冷静さなんて、欠片もなかったん?

 えへへっ。なんか、むず痒い。

 初めて聞かせてくれた本音に、口元がムズムズと緩んでいく。

 同時に、甘酸っぱくてあったかいものが、胸の奥にぽうっと灯った。


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