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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?
嫉妬と恋と花火 #1
しおりを挟む「着替えるか」
「……ん」
二階のゲストルームまでキスをしながら戻り、ドアを開けたところで、やっと唇が離れた。お互い、名残惜しげに。
キッチンからずっとキスしてて、一色たちに見られねぇか、実は心配してたけどさ。アイツらは朝まで屋根裏からおりてこないって土岐が自信満々に言うもんだからさー。それならいいかーってなったんだよ。
俺も、こんな風に土岐とたくさんキスできるのは、すげぇ嬉しいからさ。
「浴衣、出せ。着せてやる」
「うん」
よっしゃ! いよいよペア浴衣の出番だ!
「ふっふーんっ。浴衣に、帯にぃ。あと、下駄ー。ほい、全部持ってきたよん」
土岐と揃いで作った俺の浴衣は、グレーの地に黒と紺の縦縞、それに薄いピンクのラインが細ーく入ってる洒落たデザイン。
土岐の浴衣との違いは、俺のはグレーがメインの地だけど、土岐のは黒地メインってとこだけ。あとは全部同じ縦縞なんだ。お揃いなんだ。ペアなんだ! うへへっ!
さて、いつもみたいに土岐が着せてくれるから、ササッと服を脱いでぇ……。
「ん? あれ?」
勢いよくTシャツを脱ぎ捨てたところまでは、良かった。
「……はっ! おおおお、思い出したっ!」
でも、そこで気づいた。次に脱ごうとしたハーフパンツのポケットに、デニムの感触とは違う、固い物体の感触があることに。
「何だ? 何を思い出したって?」
「なっ、なんでもねぇ! 大丈夫っ」
自分のバッグから浴衣を取り出してる最中の土岐がこっちを振り向いたから、慌ててごまかす。俺の大声で驚いたんだな、きっと。
それは、そうだろう。俺だって、びっくりだ。だって、俺ってば! 予言者様への電話、わ、す、れ、て、るっ!
ぎゃーっ、どうしよう! 俺、秋田に電話したかったのに! すっかり忘れてたぁ!
どうしよう。どうしたら……。
「ん、できた。もう動いてもいいぞ」
「あ……サンキュっ」
背後で浴衣の帯を締めてくれてた土岐の許可の声にすぐさま振り向いて礼を言ったけど、頭の中は大混乱。
ああぁ、どぉーしよぉ! もう、浴衣着ちまったよ。
それに、ナニコレ、びっくり。珍しく、土岐が口元をほころばせてる。
「浴衣、良く似合ってるぞ」
綿菓子みたいにふわぁって笑って、髪を優しく梳いてくれてるんだ。
テンプレの無表情、どこ行ったよ! 両手をグルグル振り回してジャンプしてツッコミ入れたいくらい、ふわふわ甘い。嬉しくて堪んない。
けど、今はそれに浸ってる場合じゃねぇ。
浴衣の着付けが終わったから、もうビーチに行かなくちゃ。花火会場はすぐ隣の海水浴場だから、ビーチの休憩所のデッキソファーから眺めようって言われてる。
土岐が浴衣に着替え終わるまでに秋田に電話しなくちゃ。
「ととっ、土岐! 俺さ、下のキッチンに忘れ物しちまったから取りに行ってくるよ。そんで、そのまま外で待ってるから! お前はゆっくり着替えてから来てくれよなっ。じゃっ!」
言い終わる前に、部屋のドアを開けて廊下に飛び出していた。
土岐は器用で手際がいいから、すぐに着替えて一階におりてくるに決まってる。俺の電話もパパっと短時間で終わる用件だけど、ほんの少しの間も惜しい。
急げ、俺! 『恋の予言者様』にお尋ねするんだ!
「——秋田ーっ、助けて!」
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