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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?
美味しい定番 #5
しおりを挟む「なぁ、土岐ぃ?」
「ん?」
「俺、やっぱ疑問なんだけどさぁ。——あっ、野菜、焼き上がったよー」
「何の疑問だ? ——こっちのチーズもいい感じだぞ」
「アレだよ、アレ。今、あそこで繰り広げられてる高階と一色のアレっ。高階ももう高校生なんだから、無理して好き嫌いの矯正なんてする必要ないんじゃね? 肉が嫌いでも、サプリで栄養補給すればいいと思うんだよなー。——おぉ、焼き野菜のチーズフォンデュ、完成だな」
「まぁな。だがお前、それを一色に進言できる勇気あるか? ——まぐろの頬肉とチョリソーも焼けたから、一緒に添えてくれ」
「一色に? 言えねぇよ。一色には無理だから、こうやってコソッとお前に言ってんだよぅ。だって、高階の食育タイムん時の一色って、なんか、こぇーもん。エロこぇーもんっ。——俺、まぐろの頬肉、めちゃ好きー。ちょい、つまんでもいい?」
「ふっ。高階の食育タイムは一色が最も生き生きしてる時間だからな。疑問があっても邪魔しないに限る。空気を読まないお前でも、そこは気づいてたんだな。——頬肉をつまむのは構わないが……」
「ひでぇっ! 俺、めっちゃ空気読めてるよっ……ぅあっ、んんっ!」
「お前は、頬肉よりもこっちのほうが好きだろう?」
バーベキューセットを前に、土岐とふたり並んで手際よく調理しながらの会話の途中。恋人の顔がいきなり近づいてきたと思ったら、食いもんが口に突っ込まれた。
「んぅっ……ん、好き、です……サンキュ」
口いっぱいに広がった肉の風味と、ご飯の食感。それを味わい、もぐもぐと咀嚼しながら御礼を言う。これは、俺の大好物!
「肉巻き握り寿司、うんめぇーっ。薄切りロースのこの焼き加減、最高っ」
「お前のために山盛り作った。さ、俺が食わせてやろうな。——ほら、アーン?」
「うんっ。アーンっ!」
とろりと笑った土岐が手ずから食わせてくれる肉巻き握り寿司を笑顔で口いっぱい頬張る。あー、幸せー。土岐は優しいし、寿司は旨いし!
めいっぱいの幸せ気分に浸ってると、調教タイムを終えた高階と一色も合流してきた。
焼き肉とチーズフォンデュ、肉巻き握り寿司。それから一色特製(主に高階のための)アップルパイ。少し早めの夕飯を皆でめいっぱい味わう。
ひゃー、マジで幸せー。
でも俺、なんか忘れてるような……あれ? なんだったっけ?
「なぁ、土岐に武田ぁ。お前ら、花火はどこで見るんだ?」
デザートのアップルパイを俺と一緒にお代わりした高階が、アイスミルクティーを飲みつつ、この後に予定してる花火大会について尋ねてきた。バーベキューを早めに食ったのは、今夜、隣の海水浴場で花火大会があるからだ。
「俺たちは、このビーチから見ようと思ってる。お前らは、いつもの部屋か?」
高階からの問いに、ちょうど俺にカフェオレを持ってきてくれた土岐が、答えてくれた。アップルパイを口いっぱい頬張ってて、すぐに答えられなかった俺の代わりに、だ。
「ん? 俺と基矢? そうだなぁ。基矢は何も言ってなかったけど、たぶん屋根裏だろうな」
バーベキューテラスに備えつけのロッキングチェアに体重を預け、茶色い猫目をくりっと煌めかせた高階の返事は、俺も予想していた内容。
従兄弟同士である高階と一色のおじいさん。俺たちが通う祥徳学園の一色理事長が建てたこのログハウスには、理事長がこだわって作った展望スペースがある。そこは三階の屋根裏部屋から続いてて、大型の望遠鏡も備え付けられてるんだ。俺と土岐も去年はそこで一緒に見てたから、見晴らしの良さはよく知ってる。
けど、今年は土岐とふたりっきりで花火見物したいから、高階たちとは別行動なんだ。
俺が思い切ってそれを高階に伝えた時、嬉しいことに、実は同時に土岐も一色に同じことを言ってくれてたらしい。
「うへへっ」
あ、やべっ。そん時のこと思い出したら、ニマニマが止まんねぇわ。
だって嬉しいじゃん? 俺とおんなじことを土岐も願ってくれてたんだぜ? ふたりっきりでの花火観賞とか、いかにも熱々な恋人同士イベントを土岐も望んでくれてたんだもん。
アップルパイをさらにお代わりして、三切れめを頬張りながらニマニマしちゃっても、仕方ねぇよな!
潮風に吹かれての花火見物。合間に突然無言になった恋人同士が波の音をバックにそっと唇を重ねちゃうー。みたいなラブラブシーンを繰り広げる妄想でニマニマしちゃっても、仕方ねぇよな!
あぁ、アップルパイ、うんまぁーいっ!
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