花霞に降る、キミの唇。

冴月希衣@商業BL販売中

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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?

好きと言える自信 #3

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「『女子力』って何ですか。そんなプリントTシャツ着て恥ずかしくないんですか? いくら練習着は自由でいいと許可されてても、そのチョイスはないでしょ。有り得ない」

 あ、うん。だよな。けど……。

「他にも『さすが俺』とか『ドM』とか、『夢は石油王』に加えて、果ては『メガネ愛』Tシャツも着てますよね? 『メガネ愛』って……まさか、眼鏡をかけてる土岐先輩へのアピールじゃないですよね? 気持ち悪いんですけどっ」

 え、気持ち悪かった? うわ、どうしよう。だって、あの『メガネ愛』Tシャツは……。

「そんなふざけたTシャツ着て練習してる姿を見せられる僕たちの身にもなってくださいよ。武田先輩、マジでウザ……」

「なぁ、宇佐美ぃ。ちょーっと割り込むけど、いいかな?」

 え?

「えっ? 高階先輩?」

 ずっと見おろされたまま話を聞くのも何だからと一応立ち上がってみたものの、Tシャツの話題にどう返事しようかと言葉を選んでる途中で、宇佐美の声が途切れた。

 突然、場に乱入し、俺の肩に腕を回してきた高階によって。

「宇佐美さぁ。話の腰折って悪いけど、どうしてもひと言、言わせてもらいたくてさ」

 そして、後輩相手にはふんわりキャラを貫いてるはずの高階にしては珍しい、トゲのある声色が宇佐美に向かって飛んでいく。敵と認識した相手にだけ、いつも向けられてる挑戦的な表情とともに。

「お前の言う、その〝ふざけたTシャツ〟。コイツに贈ったの、俺だから」

「え……高階先輩、が?」

 あーあ、言っちまったよ。高階のヤツ。せっかく、俺が名前を出さずに話をしようとしてたのに。

「それ、武田への去年の誕プレ。ちなみに、お前がこれでもかと貶してくれた『女子力』Tシャツは、誕プレ企画を立てた武田の妹、茉莉ちゃんからの贈り物だよ」

「妹、さんの……」

「で、『ドM』Tシャツが俺からで、『さすが俺』は基矢。一色からだ。それと、『夢は石油王」が常陸のセレクト。あとさぁ――」


 ――にやり

 高階の口元が、くっと引き上がった。とても愉しげに。

 そして、男にしとくには惜しいほどの朱い唇が妖しく動いた。酷薄な笑みをたたえながら。

「『メガネ愛』Tシャツは、土岐からの誕プレだ。俺らの友情が込められた誕プレを丸ごと! 全力で! ディスってくれてサンキューな! 宇佐美!」

「え、あれが……『メガネ愛』が、土岐先輩から、の……? え? え?」

「さぁて慎吾ちゃん? もう用は済んだから、俺と保健室に行こうぜー。患部を冷やした後は湿布貼らないと、だろ?」

「えっ、高階? や、待ってくれよ。保健室行くのはいいけど、俺、手ぶらだし、荷物取ってこなきゃ。てゆうか宇佐美、どうすんだよ。まだ話の途中じゃん」

 言いたい放題言ってスッキリ顔の高階に強引に身体の向きを変えさせられたけど、顔を強張らせて固まってしまった宇佐美が気になってその場から動けない。

「あ? いいんだよ。もう話は終わってんだから。おら、とっとと行くぞ。――あ、いや、まだあったわ。おい、宇佐美。『メガネ愛』Tシャツを気持ち悪いって言ってたこと、土岐の耳に入れとくからなー」

「ひっ」

 あ、宇佐美の顔色が真っ青を通り越して、限りなく白に近い蒼白になった。大丈夫かな?



「あー、スッキリ、スッキリ! はー、気分いいなぁ」

 バスケットアリーナから強引に俺を連れ出した高階が、晴れやかに笑う。両手を上に突き上げて伸びをしてる姿は、その言葉通り、ご機嫌そのもの。

「おい高階。いくら何でも、さっきのあれはヤりすぎじゃね? お前、自称『祥徳バスケ部の天使』なのに、後輩にあんなこと言って良かったん?」

「は? 別にいいし。俺、ああいうタイプ、大っ嫌いだから」

 線の細い顔立ちを印象的に見せている茶色い猫目がキッとつり上がって、俺を見上げてきた。

「それより! お前はウザくて残念なとこが美点なんだから、何言われても気にすんなよ」

「うはは……心からの褒め言葉、サンキューな」

「むしろ、後輩にあんな風に言われ放題になってんなよ。俺が乱入しなきゃ、言いたいだけ言った挙げ句、『ふんっ』なんて鼻鳴らして去ってたぞ。あの陰険小動物」

「あぁ……うん、かもなぁ」

 ははっ。宇佐美のその様子、すげぇ想像つくわ。でも、なんでか憎めないよ。

「ホワホワと苦笑してんじゃねーよ。全く。性格良すぎだっつーの。馬ぁ鹿っ」

「うわっ。それ、やめて。セットが乱れるぅ」

「あ? 馬鹿には、このスタイルで充分だ」

 俺との身長差、十センチ。バスケ選手としては小柄な高階が、飛びつくようにして俺の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜてくる。

「やーめーてぇー」

 それを頭を振ってよけながら、声を出して笑った。ふたりで。

 サンキューな、高階。俺のために怒ってくれて。

「おら、保健室行くぞ」

「うん」

 でもさぁ、高階? 宇佐美が言ってたこと、ほんとは全部当たってんだよ。

 だから俺、Tシャツの誤解だけ、解ければいいと思ってたんだ。

 それ以外は、言われ放題でも別に良かった。俺の駄目なとこ。全部、宇佐美の指摘通りだったんだから――。


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