花霞に降る、キミの唇。

冴月希衣@商業BL販売中

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恋のバカンスは、予言通りにはいかない!?

秘密 #1

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 ――俺が好きなのは、男だっ!


 ん? ニュアンス間違えてる?

 えー、補足すると。決して『男が好き』なわけではなく!

 俺が小さな頃から大好きで、大好きでっ。めーっちゃ、大好きなヤツ。土岐奏人《とき かなと》。

 ソイツが男で、俺も男。つまり、男を好きなわけじゃない俺が好きになったのが、同じ男の土岐で。

 結局、何が言いたいかと言うと――――性別なんて関係なく、『土岐だから恋した』ってこと!

 でもさ、こんな風に胸を張って言えるのは夢の中だけなんだよ。

 告白なんて、とんでもない。夢の中でだって、告れねぇ。無理、無理っ!

 だって、土岐とは友だちだもん。幼なじみだもん。男同士だもん。

 ……嫌われたく、ねぇもん。

 だから、ぜってぇ言わないんだぁ。俺のBでLな、土岐への一方通行ラブのことは、誰にも秘密っ。『アイツ』以外には、な。

 そう、いつの頃からか、俺のせつない片想いに気づいて、めちゃ気が利くアドバイスをしてくれるようになった、アイツ。

 とっても頼れる、俺の恋の予言者――――それは、秋田正親《あきた まさちか》さま!











「――武田?」

「……ん……」

「お前、またこんなところで寝てるのか。おい、起きろ」

「ん……秘密……これは秘密なんだよ。予言……恋のよげーん」

「おまけに、また激しく寝ぼけてるぞ。なんだ、その寝言は。はあぁ……全く。おい、マジでそろそろ起きろ。もう下校時間だぞ」

「駄目だよ。秘密なんだから……うーん」

「これだけ言っても、まだ寝るか。いい加減に……」

「うーん……秋田ぁ」

「ほう? ここに俺がいるのに、秋田を呼んだか? いい度胸だな、お前」

「んっ? んーっ、んんんっ!」

 何っ? めっちゃ苦しい!

 えっ、嘘! 土岐っ? なんで、ここにお前が?

「んんっ……んーっ」

 突然の呼吸困難にパチンっと目を開けてみれば、超絶至近距離に土岐のお綺麗な顔がっ!

 頬には、土岐がかけてる眼鏡のフレームが当たってるし! おまけに、唇! 唇がバッチリ重なってて、舌が! 舌がががっ!

 こってりと絡み合ってますうぅぅーっ!

 なんで俺、こんなコトになってんだ? 夢か? これは、ご褒美の夢なのかぁっ?

「……んぁっ! とっ、土岐っ?」

 呼吸困難で気が遠くなる寸前で、やっと土岐が離れてくれた。ぷはぁ、と大きく息を吐き、すぐに名前を呼ぶ。

 なっ、なんでキス? 今の、完全にキス、だよなっ? しかも、かなりこってり、濃いめの!

「やっとお目覚めか。早くカバンを持て。帰るぞ」

 けど、返ってきたのは、涼しい顔つき。もとい、冷え冷えとした絶対零度の眼差し。なんか、怒って、る?

「あ……う、うん、わかったぁ。お待たせして、ごめ……ん?じゃなくて! ちょい前から起きてたし! めちゃ苦しくてっ……つーか! 今! 何してたんっ?」

 そうだよ。これを聞かなくちゃ。今、俺たちキスしちゃってたぞ? もしや、土岐も実は俺のこと、すすっ、好き! とか?

「あ? 下校時間なのにお前が全然起きないから、鼻と口の両方を塞ぐことにしただけだろう。大げさに騒ぐな」

 でも、期待を込めて見つめた土岐からは、さっきと変わらない冷たい目。おまけに、険しい表情。

 や、やっぱ、なんか怒ってます?

「あ、そうだったん? それは迷惑かけて、ごめ……ん? じゃなぁーいっ! 鼻と口の両方は死ぬ! 塞がれたら、俺死ぬ! それに、ここは教室で! そんで、俺たちっ……」

「あー、うるさい。静かにしろ。ちゃんと誰も居ないのを確認したし、そもそもお前が無防備に唇をふにふにと動かしてるのが悪い。可愛いから、誘われて当たり前だろ?」

「……っ」


――チュッ

「とっ、とととっ……」

 『俺たち友だちなのに』と言いかけた俺に、また土岐の顔がアップで迫ってきた。すかさず形の良い唇が俺の唇に触れ、軽いリップ音を立ててから、すぐに離れる。

「なんだ? もう一度か?」

「あ……ふぁ……ぁ、ん」

 そうして、目を見開いた俺に甘く低められた声と色っぽい表情がまた近づいて、再び唇が深く重なった。

 あぁ、そうだった。思い出した。

 当然のように唇を割って侵入してきた熱い舌に翻弄されながら、やっと、本当の意味で夢から覚めた。

 俺たち、もうつき合ってんだったよ。かなーり前から。片想いしてた時の夢なんて見ちまったから、起き抜けで混乱してたわ。つか、完全に寝ぼけてた。

 片想い中の土岐にキスされて目覚めることができるなんて、童話のお姫様みたいな展開だなぁ、なんてことも思った。片想いの神様が一途に土岐を想い続けてる俺にくれたご褒美なんだと、勘違いもしちまってた。

「武田、もう一度だ」

「……ふっ、んぁ……あ、土岐ぃ」

 でも、この幸せすぎる現実のほうが、一番のご褒美だ。

 ああっ、夢みたいに幸せっ。


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