花霞に降る、キミの唇。

冴月希衣@商業BL販売中

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Truth -side Kanato-

#2

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 宮さま、だと? そう呼んだな、今。

 おい、お前。いったい誰の夢を見てる? 俺か? それとも……花宮先輩?

 あぁ……“また”か。俺は、どうやっても、あの人たちには勝てないのか?

 宮城先輩と花宮先輩。コイツの憧れの先輩たちには……。

 確かに、花宮先輩はすごい人だ。俺もうっかり見惚れるほどの一流のバスケプレイヤー。武田が憧れる気持ちも、わからなくもない。

 だが、俺の目の前で花宮先輩を手放しで褒めまくられるのは、正直イラつく。

 宮城先輩に至っては、わざわざ三年の教室に出向いてまで『今日も憧れてます』とか『好きです』って告白してるらしいし。

 なんだ、それ。俺には、そんなこと言わないくせに。

 俺には、ほんのたまに、数学を教えてやった時の御礼代わりくらいにしか言わないくせに。

 けど……そうやって俺に数学を教わってる間、コイツは問題集じゃなく俺を見てるんだよな。で、無意識なのか、ほんのりと頬を染めたりしてるわけだ。

 堪らない。

 気づかないふりで淡々とペンを走らせ、数式の説明をしていく俺の身にもなってほしい。

 それに、時折、物陰から俺のことをじっと見つめてきたりしてくるんだ。ものすごく可愛らしい表情で。

 が、その後は大抵、不自然なほどに俺を避けまくる。

 まるで、照れているみたいに真っ赤な顔をして。

 目を泳がせて視線を合わさないようにしてるくせに、少し経つと何か言いたげにチラチラと目線を寄越してきたり。

 紅潮した頬と、潤んだ瞳。堪らなく色っぽい表情が、俺だけに向けられてると確信できる時もある。

 だから、自惚れてしまう。もしかして、コイツも俺と同じ気持ちなのかって。

 あの、すごい先輩たちよりも、俺のほうが好かれてるんじゃないかって。かすかな期待を持ってしまうんだ。

「……んー、土岐ぃ……」

 あ? なんだ? また思わせぶりな寝言か?

「へへっ、だぁい好きっ。俺の土岐いぃ……」

「……っ」

 おい、この馬鹿やろう。

「はぁぁ……お前、本当に寝てるのか? いい加減にしろよ」

 マジでいい加減にしてほしい。このタイミングとか。

 上げて、落として、また上げるとか。

 俺をどうしたいんだ。全く。

 もう、オチはないだろうな? このまま、自惚れたままでいさせてくれるんだろうな?

 ああぁ……俺はずっと、こんな風に、コイツに振り回されていくんだろうか。

「ふふっ。本望か……本望だな」

 うん、それでいい。俺は構わない。

 だから、お前もいいか?

 ほんの少し、だ。

 ほんの少しだけ、この生意気な口を塞いでやりたいだけなんだ。

「……ん……」

 規則正しい寝息。閉じたままの瞼。それらに変化が見られないことを慎重に確認しながら、唇を重ねる。

 そっと、そっと。羽根のように。

 かすかな風のように。

 触れては離れ、寝顔を確認し、また触れ合わせていく。何度も、何度も。

「はぁ……」

 どうしようか?

「やばいな。止まれない」

 なんだ、コイツ。唇、ぷるんぷるんじゃないか。なんで、こんなに柔らかいんだ?

 おまけに、唇を重ねながら至近距離で見る寝顔が、どうしてこんなに色っぽい?

「んぁ、ん……土岐ぃ……ふふっ……」

 確実に寝てるのに、寝息や寝言までもが、なんでこんなに可愛らしいんだよ。

 なんなんだ、お前。

「堪らない」

 止められないじゃないか。

「まだ、起きないよな?」

 武田に口づけるために、俺も同じように平台のベンチに乗り上げ、その身体の横に片肘をついている。

 そうして唇を重ねていたわけだが、空いていたもう片方の手を伸ばしてみることにする。

 沸々とわき起こる悪戯心を抑えきれなくて。

「起きるなよ?」

 ユニフォームの胸元。まだ触れたことのないその部分へと。


――ぴくんっ

 なだらかな胸元に指先だけを乗せ、身体のラインに沿って撫でおろした、その時。

「……っぁ……ん」

「……っ。なんだ、その声」

 武田の身体がぴくんっと跳ね、口元から可愛らしくも悩ましい声が漏れた。

 ユニフォーム越しに触れた、胸元の一点。

 滑らせていた指の腹に、最初ふにっと柔らかく触れた粒。

 胸元のラインに埋もれていたそこに触れた時に漏れ出た声。その悩ましさに、俺の中の何かが顕著に反応する。

「ここ、か?」

 ここ、気持ちいい? 感じてるのか?


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