花霞に降る、キミの唇。

冴月希衣@商業BL販売中

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キミの熱に、焦がされる。

#8

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「さて、帰るか」

「うん」

 土岐の身体が正面から俺の真横に移動した。並んで歩くために。

 他の生徒たちは、グラウンドから門に直接向かってるんだろう。今、中庭の通路を歩いてるのは俺たちふたりだけだ。

 『恋人同士』になった俺たちだけ。

 でも、男同士だから、もちろん手なんか繋がない。

 けどさ。時折、というか頻繁に肩が触れる。それほどの近い距離に、土岐が居るんだ。

 これが嬉しい。堪らなく。

 肩が触れても眉をしかめたりされないし、じっと見つめてても、怪訝そうにも嫌そうにもされない。

 むしろ、無表情を緩めて、かすかに微笑んでくれるってオプションつきで。そりゃもう、天にも昇る心地なんだよ。

 あー、それはそうとさ。土岐って、いつから俺のことを好きでいてくれたんだろ?

 聞いてみたい。すごく。

 けど、今日はやめておこうと思った。だって、明日の約束ができたんだから。

 土岐がそれを聞かせてくれるその時には、俺の十年ぶんの想いも、さりげなく伝えてみようか。

 十年……思い返せば、いろんなことがあった。土岐は、覚えてるかな? あん時のこと。

 少し向こうに見えてきた裏門前の桜並木。昼間なら綺麗な紅葉を見せてくれるその木々を目に映し、遥か昔の記憶に意識を飛ばした。

 十年前、幼稚舎の入園式の日。ふざけて園舎の桜の木によじ登ろうとして、いきなり一歩目で、あえなく桜の絨毯の中に沈んだ俺。

 その時、遠巻きに見てた園児たちの中で、ただひとり。背中をしたたかに打ちつけた痛みで立ち上がれなかった俺に、手を差し伸べてくれた子がいた。

 付添いのお母さんに、『かーくん』って呼ばれてたヤツだ。

 俺の初恋で。それ以来、ずっと俺の心を占めてきた相手――――土岐奏人。

 あん時は、まだ眼鏡かけてなかったんだよなぁ。かーくん。

 だから、濃茶色の髪から覗く黒瞳が今よりも印象的で、それでいて柔らかな光を放ってて。話をしたり遊んだりするのが本当に嬉しくて楽しくて……。

「あぁ、そうだ。武田」

 ふと、呼び止められた。

 目線を横に流せば、眼鏡の奥の切れ長の瞳が俺を捕らえて、艶と深みを増す。

「まだ、言ってなかった。好きだよ――――いつの間にか、誰よりも特別になってた。でも大切だったのは、桜の花びらに埋もれてる姿を見た時から、ずっとだ」

「……っ、土岐ぃ」

 一瞬で、涙が滲み出てきた。

 そして、つうっと頬を濡らしていく雫を拭ってくれる優しい指の持ち主から、更にもうひと言。

「俺の“特別”は、これからずっと、お前だけだ」

 サァッと吹きつけてきて、俺たちを包んだ秋の夜風。

 濡れた頬を撫でていったその感触の中に、あの日の花の香りが混じっていたような気がした。








-Fin-
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