26 / 87
キミの熱に、焦がされる。
#8
しおりを挟む「さて、帰るか」
「うん」
土岐の身体が正面から俺の真横に移動した。並んで歩くために。
他の生徒たちは、グラウンドから門に直接向かってるんだろう。今、中庭の通路を歩いてるのは俺たちふたりだけだ。
『恋人同士』になった俺たちだけ。
でも、男同士だから、もちろん手なんか繋がない。
けどさ。時折、というか頻繁に肩が触れる。それほどの近い距離に、土岐が居るんだ。
これが嬉しい。堪らなく。
肩が触れても眉をしかめたりされないし、じっと見つめてても、怪訝そうにも嫌そうにもされない。
むしろ、無表情を緩めて、かすかに微笑んでくれるってオプションつきで。そりゃもう、天にも昇る心地なんだよ。
あー、それはそうとさ。土岐って、いつから俺のことを好きでいてくれたんだろ?
聞いてみたい。すごく。
けど、今日はやめておこうと思った。だって、明日の約束ができたんだから。
土岐がそれを聞かせてくれるその時には、俺の十年ぶんの想いも、さりげなく伝えてみようか。
十年……思い返せば、いろんなことがあった。土岐は、覚えてるかな? あん時のこと。
少し向こうに見えてきた裏門前の桜並木。昼間なら綺麗な紅葉を見せてくれるその木々を目に映し、遥か昔の記憶に意識を飛ばした。
十年前、幼稚舎の入園式の日。ふざけて園舎の桜の木によじ登ろうとして、いきなり一歩目で、あえなく桜の絨毯の中に沈んだ俺。
その時、遠巻きに見てた園児たちの中で、ただひとり。背中をしたたかに打ちつけた痛みで立ち上がれなかった俺に、手を差し伸べてくれた子がいた。
付添いのお母さんに、『かーくん』って呼ばれてたヤツだ。
俺の初恋で。それ以来、ずっと俺の心を占めてきた相手――――土岐奏人。
あん時は、まだ眼鏡かけてなかったんだよなぁ。かーくん。
だから、濃茶色の髪から覗く黒瞳が今よりも印象的で、それでいて柔らかな光を放ってて。話をしたり遊んだりするのが本当に嬉しくて楽しくて……。
「あぁ、そうだ。武田」
ふと、呼び止められた。
目線を横に流せば、眼鏡の奥の切れ長の瞳が俺を捕らえて、艶と深みを増す。
「まだ、言ってなかった。好きだよ――――いつの間にか、誰よりも特別になってた。でも大切だったのは、桜の花びらに埋もれてる姿を見た時から、ずっとだ」
「……っ、土岐ぃ」
一瞬で、涙が滲み出てきた。
そして、つうっと頬を濡らしていく雫を拭ってくれる優しい指の持ち主から、更にもうひと言。
「俺の“特別”は、これからずっと、お前だけだ」
サァッと吹きつけてきて、俺たちを包んだ秋の夜風。
濡れた頬を撫でていったその感触の中に、あの日の花の香りが混じっていたような気がした。
-Fin-
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる