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キミの背中に、手を伸ばす。
#7
しおりを挟む「なぁ、ここに土岐が来なかったか?」
「土岐? や、見てねぇな」
「そっかぁ。サンキューな」
ここにも居ない。土岐ぃ、どこに行ったんだぁ?
秋田による悪夢のような撮影時間が終わった後も、明日のための準備に追われて、なかなか教室を出られなかった。
自由になって一番に隣のクラスに駆け込んだけど、やっぱりというか当然というか、そこには土岐は居なかった。
白藤ちゃんは、俺が常陸とほっぺたをくっつけ合ってる途中で戻ってきて、秋田の後ろでキャーキャー騒いでたけど。彼女が土岐とふたりで出ていった後、どこで何をしてたのかなんて聞く勇気は俺にはなかった。
そんな勇気はないくせに、でも土岐には会いたくて。こうして、アイツが居そうな場所を探して回ってるんだけど、見つからない。
馬鹿なことをしてるって、わかってる。自分が、とんでもなく愚かだってことも。
『どこに居んの?』
思い切って送信したメッセージも既読スルーされてるから、自分の足で探してるんだ。
「あー、もうすぐ始まっちゃうじゃん。中夜祭。マジで、どこに居んだよ。土岐ってば」
祥徳学園の学園祭は、外部からのお客様を迎える日中の祭りも、もちろん盛り上がるけど、初日の夜に行われる中夜祭と二日目の後夜祭は、生徒だけで盛り上がれる最高に楽しいものだ。
一緒に、過ごしたかったのになぁ。
土岐は、学園祭だからって大騒ぎしたり羽目を外すようなタイプじゃないし、大声で笑ったりすることもないヤツだけど。
特に、俺ににっこり笑いかけてくれることなんて、本当にないけど。
それでも、一緒に――――アイツの隣に、居たかったなぁ。
俺が土岐のぶんも大騒ぎして、馬鹿笑いしてさ。そんで、アイツに『祭りとは言え、騒ぎすぎだ。少しは静かにしろ』なんつって注意されんだよ。
それで、丸めた指の甲で頭をコツンっとかされちゃってさっ。
そしたら、俺、ぜってぇ赤面しちゃう自信があるからさ。『ごめん!』って頭下げて、赤くなった顔を隠すんだー。
「……」
やべぇ。俺の妄想と病み加減、マジやべぇ。
100%願望の妄想で身体くねらせてる暇があったら、本人を探さなきゃ!
赤面しようにも、本人が居なきゃ、ただのやべぇヤツじゃんっ!
本人が居たら、別の意味でやべぇけどなっ!
「……居た」
居たよ、土岐が。
探しても探しても見つからなくて、ほんとはもう帰っちゃったんじゃね? なんて諦めつつ、今度はグラウンドを探そうと外に出てきたら一発で見つかった。
けどさー。なんで、そんなとこに居んの?
「さーて、次はエントリーNo.7! ラストを飾るのは、バスケ部代表! 花宮煌と土岐奏人! テーマは、軍服パラダイスっ!」
なんでお前、軍服なんて着て、宮さまと顔を寄せ合っちゃったりしてんの?
「サブテーマ! ストイックなお兄さんは、好きですかぁぁぁ!」
「「「大好きぃぃぃーっ!」」」
「……」
なんで……宮さまに髪を梳き上げられながら見つめ合っちゃったりして、女子の皆さんから、めっっっちゃ、キャーキャー言われてんの?
『仮想で妄想☆仮装コンテスト』なんつー派手なイベントに、なんで宮さまと仲良く出場してんの?
「わけ、わかんねぇ」
土岐ぃ。
「なんで? なんもわかんねぇよ、俺」
お前のこと、何ひとつ理解できない。
「だからかな。足が動かない。ステージに近づけねぇよ」
いつでも、お前の傍に近づきたい俺なのに。
地面に足が縫い止められたみたいに、一歩も動けない。
ただ、ステージ上で宮さまと並び立つ土岐の、すらりと姿勢の良い姿を食い入るように見つめるだけ。
「それにしても、かっけーなぁ」
プルシアンブルーで合ってんのかな、上着の色。紺青色の生地に白のライン、金モールの軍服。
「めちゃ似合ってるわ」
さすが、俺の土岐だぜ。
「……ふっ。何が、『俺の』だよ。図々しいな、全く。俺、マジ馬鹿」
LINEも既読スルーされる程度の扱われようなのに。
自嘲の笑みで、口元がひどく歪んだ。
「――投票結果が出ましたー! 優勝は、バスケ部の軍服パラダイスーっ! 二位に100票以上の差をつけての圧勝です! さぁ、花宮くん、土岐くん! ステージ中央へどうぞーっ!」
「……優勝、おめでとさん」
くるりと振り返り、ステージに背を向ける。おかしなことに、土岐に背を向けて歩き出すためになら、足はサクサクと動いた。近づくことはできなかったくせに。
逃げるように顔を背けたのには、理由がある。
短いインタビューを終え、ステージからおりた土岐の傍に駆け寄る、白藤ちゃんの姿をみとめたから。
そのまま、ふたりで人波の中に消えていくのを最後まで見ていられなかったんだよ、俺……。
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