上 下
8 / 87
キミの視線に、乱される。

#4

しおりを挟む


「は? お前が?」
「えっ、武田くんも行くの?」

 土岐と白藤ちゃん、ふたりが同時に俺を見た。

 つか、俺を見た土岐の眉間に、くっきりとしわが寄ってる。急に立ち上がって驚かせたことを割り引いても、かなり不機嫌そう。

「お前も一緒に行くのか? 何組に用があるんだ」

 あ、しまった。ふたりの仲のいいやり取りを聞いていたくなくて、つい割り込んじまったけど、なんも考えてねぇ。

 訝しげに向けられるきつい目線に、早く何か答えなきゃだ。

 仕方ない。ここはひとつ、『あの人』の名前を出そう。

「いっ、1組! 3年1組! だから、俺も一緒に……」

「1組っ? 武田くん、ずるい! なら、チカも一緒に行く!」

 俺の言葉の途中で、今度は秋田が飛び上がるように立ち上がった。

「1組に用だなんて、いっちゃんに会いたいからに決まってるじゃん。抜け駆けは許さないからね。チカも行くんだからっ」

 その通り、3年1組は、宮城壱琉みやぎ いちる先輩がいるクラス。

 宮城先輩は、フェロモンたっぷりの綺麗な顔と、その美形顔に似合わない仏頂面と毒舌がすんげぇカッコいい、俺の憧れの先輩だ。

 そんで秋田が、ちっさい頃からめちゃめちゃ慕ってる幼なじみでもある。

「あー? 秋田も、一緒に行く? 俺はさー、『今日もめちゃめちゃ憧れてます』って言いに行くんだぁ」

「行くよっ。てかチカは、いっちゃんの大好物を手作りしてきてるから、それを渡すの」

「えっ? 宮城先輩の大好物って何? 知りたい、知りたいっ。是非、俺にも教えてく……」

「お前ら、うるさい。そんな用、今じゃなくてもいいだろっ」

 秋田と顔を見合わせ、浮き立った気分で交わしてた会話が、唐突にさえぎられた。声の主、土岐を見れば、硬質な目線が俺らに返ってきてる。

「こっちは真面目な用で行くんだぞ。というか、真剣に学園祭の打ち合わせしろよ。実行委員だろうが。――行こう。白藤さん」

「あっ、はい。あのっ、ふたりとも、後でね!」

 冷たい口調で言い放って、さっと背中を向けた土岐を、慌てて追いかける白藤ちゃん。その白藤ちゃんを途中で立ち止まって待って、並んで歩き出した土岐。

 あれ? 俺、いつの間にか置いてきぼりになってる。なんで?

 結局、仲良く並んだふたりの姿を見せられてる。どうして?

「あーあ、置いてかれちゃったねぇ、チカたち。じゃあ、まずは打ち合わせの続き、しよっか。真面目に」

「……うん」

 また、空気の読めない脳天気な馬鹿って思われたよなぁ、俺。

 去り際に土岐が向けてきた視線、めっちゃ冷たかったもんな。

 絶対、思われただろうな。『むかつく、お邪魔虫』って。絶対……。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

霧のはし 虹のたもとで

萩尾雅縁
BL
大学受験に失敗した比良坂晃(ひらさかあきら)は、心機一転イギリスの大学へと留学する。 古ぼけた学生寮に嫌気のさした晃は、掲示板のメモからシェアハウスのルームメイトに応募するが……。 ひょんなことから始まった、晃・アルビー・マリーの共同生活。 美貌のアルビーに憧れる晃は、生活に無頓着な彼らに振り回されながらも奮闘する。 一つ屋根の下、徐々に明らかになる彼らの事情。 そして晃の真の目的は? 英国の四季を通じて織り成される、日常系心の旅路。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

処理中です...