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キミの視線に、乱される。
#4
しおりを挟む「は? お前が?」
「えっ、武田くんも行くの?」
土岐と白藤ちゃん、ふたりが同時に俺を見た。
つか、俺を見た土岐の眉間に、くっきりとしわが寄ってる。急に立ち上がって驚かせたことを割り引いても、かなり不機嫌そう。
「お前も一緒に行くのか? 何組に用があるんだ」
あ、しまった。ふたりの仲のいいやり取りを聞いていたくなくて、つい割り込んじまったけど、なんも考えてねぇ。
訝しげに向けられるきつい目線に、早く何か答えなきゃだ。
仕方ない。ここはひとつ、『あの人』の名前を出そう。
「いっ、1組! 3年1組! だから、俺も一緒に……」
「1組っ? 武田くん、ずるい! なら、チカも一緒に行く!」
俺の言葉の途中で、今度は秋田が飛び上がるように立ち上がった。
「1組に用だなんて、いっちゃんに会いたいからに決まってるじゃん。抜け駆けは許さないからね。チカも行くんだからっ」
その通り、3年1組は、宮城壱琉先輩がいるクラス。
宮城先輩は、フェロモンたっぷりの綺麗な顔と、その美形顔に似合わない仏頂面と毒舌がすんげぇカッコいい、俺の憧れの先輩だ。
そんで秋田が、ちっさい頃からめちゃめちゃ慕ってる幼なじみでもある。
「あー? 秋田も、一緒に行く? 俺はさー、『今日もめちゃめちゃ憧れてます』って言いに行くんだぁ」
「行くよっ。てかチカは、いっちゃんの大好物を手作りしてきてるから、それを渡すの」
「えっ? 宮城先輩の大好物って何? 知りたい、知りたいっ。是非、俺にも教えてく……」
「お前ら、うるさい。そんな用、今じゃなくてもいいだろっ」
秋田と顔を見合わせ、浮き立った気分で交わしてた会話が、唐突にさえぎられた。声の主、土岐を見れば、硬質な目線が俺らに返ってきてる。
「こっちは真面目な用で行くんだぞ。というか、真剣に学園祭の打ち合わせしろよ。実行委員だろうが。――行こう。白藤さん」
「あっ、はい。あのっ、ふたりとも、後でね!」
冷たい口調で言い放って、さっと背中を向けた土岐を、慌てて追いかける白藤ちゃん。その白藤ちゃんを途中で立ち止まって待って、並んで歩き出した土岐。
あれ? 俺、いつの間にか置いてきぼりになってる。なんで?
結局、仲良く並んだふたりの姿を見せられてる。どうして?
「あーあ、置いてかれちゃったねぇ、チカたち。じゃあ、まずは打ち合わせの続き、しよっか。真面目に」
「……うん」
また、空気の読めない脳天気な馬鹿って思われたよなぁ、俺。
去り際に土岐が向けてきた視線、めっちゃ冷たかったもんな。
絶対、思われただろうな。『むかつく、お邪魔虫』って。絶対……。
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