花霞に降る、キミの唇。

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
上 下
1 / 87
キミの囁きに、震える。

#1

しおりを挟む



 ゆらり――――影が、揺らぐ。

 オレンジ色の夕陽が色濃く射し込む、部室の一角。そこで、夕陽に滲むようにゆらりと揺れているのは、ふたつの影。

 夕闇に溶けゆくのをただ待つだけの、しんと静まったその空間に、少し高めの色めいた声が空気を震わせながら響いていく。

「――気持ちいいか? 頬が上気してきたな」

「……ぁ……んっ」

 それは、俺の大好きな声。

 幼なじみの土岐奏人とき かなとが、艶やかな声とともにユニフォーム越しに与えてくるのは、胸元の敏感な部分への執拗な刺激だ。

「ふぁ……あ、そこっ……あぁっ」

「ん、イイ声だ」

 いつからか、他の部員が帰った後の部室で行われるようになったふたりだけの秘密の遊戯は、幼い頃から土岐をずっと好きだった俺を舞い上がらせ、蕩けさせる至福の時間。

 ついさっきまで部員同士がにぎやかに騒ぎ、喋っていた部室は、それまでとは真逆な淫らな色をまとい、とろりと濃い空気で満たされ始めていた。

「武田」

 チョコレート色のアンダーリムの眼鏡が良く似合う秀麗な面差しが俺の名を呼び、髪に指を通し、ゆっくりと後ろに梳いていく。

 反対側の手で頬を撫で、耳朶に吐息を降らせながら何度もそこを食まれれば、既に熱くなっていた身体がさらに熱を持ってしまう。

「んっ……土岐ぃ」

「目も潤んできたな。ユニフォーム越しの感触でも、ちゃんと感じたのか? けど、やっぱりじかに触れてほしいだろう?」

 しっとりと鼓膜を震わせた囁きは、意地悪で愉しげな響きを宿し、くいっと曲げた親指が肌をつうっと滑りながらユニフォームをたくし上げていく。

 あぁ、早く。早く、もっと先に進んで。

 俺の好きな部分に、早く来て。

 露わになっていく肌にひやりとした外気が広がり、捲り上がったユニフォームの中で動く土岐の指が、待ちかねた場所に到達した。

「お前の可愛いところ、今日も存分に可愛がってやろうな?」

 とろりとした土岐の声と同時に、ぷっくりと膨れた胸の粒の下部に爪先がそろりとかかった。

「ひゃっ! あんっ……えっ? なんで?」

 甘く誘う声とともに、やっと乳首の先端に触れてくれたその親指は、けれど指の腹で固くしこった部分をピンと撫で上げただけで、すぐに離れていってしまうんだ。

 え、どうして? 俺、こんなに待ってたのに。それだけしか触ってくんねぇのは、なぜ?

「土岐、なんで?」

 どうして触れてくれないのかと不安な気持ちで見上げれば、いつもの無表情から冷たい声が零れ落ちる。

「武田? お前、俺が触れる前から、もうこんなに固く尖らせてるのか? なら、俺が触る必要は、もうないな」

「え? あ、やだぁ! やだよっ。触ってっ……触って、そこっ」

 土岐の二の腕にすがりつき、素直に『触って』と懇願すれば。

「ふっ、そんなに好きか? 俺に、こうされるのが」

 冷たかった声に甘い響きが取って代わり、乳首の上で土岐の親指がくにゅりと円を描く。

「ああぁっ……んっ、好きっ。好きぃっ」

 それっ、好き。

 やっと与えられた、待ちかねた刺激。

 その歓喜に、じんと痺れた脳から理性は吹っ飛び、開いたままの口からは本能の叫びだけが放たれる。

 もっと! もっと、くれよっ。








イラスト:MARI(香咲まり)様




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

おうちにかえろう

たかせまこと
BL
この世には理から零れ落ちてしまった存在がある。 呪い師はそんな存在の一つ。 呪い師の弟子、夜長と照葉は、お互いを大事に思いながらも一歩踏み出せないでいた。 二人が互いを思いあってゆっくりと関係を結んでいく話。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

処理中です...