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罪と咎と、償いと 【2】

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「――シュギル様」

「ザライア。どうした?」

 王宮の廊下を進んでいる途中、背後からかけられた声。しわがれたそれは、先ほど父王の御前に並んでいたはずのザライアのものだ。私を追いかけてきたのか?

 黒衣の神官がゆるりと近づいてくるのを、立ち止まって待った。

「シュギル様。シュギル様は御存知なかったことですが、実は多頭竜は一匹だけではないのです」

「何っ? どういうことだ?」

 真横まで近づき、他者には聞こえぬように配慮して告げられた言葉に、思わず強い口調で問いかけていた。

「シュギル様は、御自身が罪に問われないことを受け入れておられない御様子とお見受けしました。ですので、差し出がましいとは存じましたが、真実の一端をお伝えしておきます」

 一端? 全てを詳しく話すわけにはいかないということか。

此度こたびのこと、創造神はお怒りになられてはおられません。ですから、シュギル様は罪人ではないということです」

「なぜだ。例え、一匹だけではなかったとしても神使しんしに刃を向けたのだぞ?」

 納得がいかぬ。

 多頭竜の数など関係ない。私の行為は、私情からの神への冒涜であろうに。

「“だからこそ”ではないですか? 多頭竜の首を一閃で落とすほどの戦士が王家に生まれたことが……あ、これは少々喋りすぎたようです」 

 途中で言葉を飲み込んだザライアが、少し距離を取って頭を下げた。

「ともあれ、先ほどの国王陛下の御言葉は、創造神の御心みこころに添ったものであるということだけはお伝えしておきましょう。では、私はこれにて」

 まだ、すっきりしたわけではない。

 が、父上の処断の理由はわかった。国のために出陣することが償いなのだろう。

 事実、毎年この時期にユーフラテス下流域に現れては略奪を繰り返す他民族を蹴散らすのは私の役目のひとつでもある。

 それに、静かに立ち去っていく黒衣の男が最後に口にした言葉が、私が胸に抱え続けていた不安を一掃してくれた。


『あの生贄の少女。祭祀に失敗した者は要らぬということで、生贄の任を解かれました。本日より神殿にて身柄を預かることとなっております』


「ルリーシェ……良かった」

 私は、どのように断罪されても構わなかった。どのような処罰も甘んじて受けるつもりだった。

 ルリーシェ。ただ、彼女の処遇だけが、気にかかっていたのだ。

 私が罪に問われた後に再び生贄として祭壇に上ることがないよう、私の命をもって父上に願い出るつもりだった。

 だが、ザライアのもとで過ごせるのなら安心だ。

 生きていてくれるなら、それで良い。

 例え、二度と会うことが叶わなくとも――。


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