キミとふたり、ときはの恋。【 君と歩く、翡翠の道】

冴月希衣@商業BL販売中

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第一話

君と歩く、翡翠の道【2−3】

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「涼香ちゃん、どうしたの?」
「……あ」
 恥ずかしさのあまり、叫び声をあげちゃった私を、少し前を歩いてた美也ちゃんと満里奈ちゃんが振り向いた。
 そのまた前を歩いてる高階くん、武田くん、萌々ちゃんまで。ということは、後ろを歩いてる常陸くんと兼子くんにも当然聞こえてたよね?
 きゃーっ! 恥ずかしすぎるっ!
「な、何でもないの。ちょっと驚くことがあって……皆、ごめんなさい」
 話の内容なんて、とてもじゃないけど言えないもん。曖昧に笑って、謝ることでごまかした。顔が赤くなってるだろうけど、そこはスルーよ。
 叫び声の原因のチカちゃんを見ると、さっきのニンマリよりも更にニンマリした表情。それで、「無自覚だから、威力があるんだろうねー。きっと」って言われたけど、『威力』の意味がわかんない。でもたぶん、まだからかい半分な気がする。
 もうっ、チカちゃんったら! ちょっとだけ睨んでみようかと思ったのに、最後に「ふふっ」って笑った表情がめちゃめちゃ優しいから、私も自然と笑顔になっちゃうじゃない。
 もうほんと、チカちゃんには勝てないわぁ。



「えっ、絵のモデルをするのっ? わぁ、チカちゃん、すごい! あ。でも、チカちゃんの絵なら私もほしいかも」
 チカちゃんから、GWが明けたら美術の先生の絵のモデルをする予定なんだって話を聞いて、めちゃめちゃ食いついちゃった。
 美術の白石光しらいしあかり先生は、今年から私たちの学年の授業を担当することになられた方。奏人のクラスの副担任でもある。
 男の人なんだけど『あかりちゃん』って呼び名で呼ばれてて、イケメンというよりは美人って言い方のほうがぴったりの綺麗な人だ。
「そんな大袈裟なものじゃないと思うけど。チカの髪を気に入ってくれて、『描きたい』ってお願いされちゃったんだよねー」
「あー、うん。それ、わかる。チカちゃんの髪の色、綺麗だもんねぇ」
 うんうん! と頷いて。ふわふわの綺麗な茶髪が、大きな瞳の上で風になびいてる様を見つめる。
 奏人の髪も艶のある濃茶色だけど、チカちゃんのそれは、明るめの茶色。ふんわりと天然のウェーブがかかってて、長い睫毛が縁取る大きな瞳が、より映えてる。
「そういえば、高階くんの髪も綺麗な茶色だけど、チカちゃんのほうが薄い色なんだね。二人ともふわふわした髪質だから、羨ましいな」
 男の子なのにズルいって思ったけど、それは口には出さなかった。

「ありがと。高階くんもチカも、地毛なんだけどね。あ、でも『髪の色』と言えば、今は断然あの子じゃない?」
「あっ、そうだね。あの子、だねっ」
 チカちゃんと一緒に、前方に目線を伸ばす。高階くんと萌々ちゃん。ふたりの間で、元気よく歩いてる男子。武田くんに。
 太陽の光に透けて輝くその髪は、艶のあるアッシュグレージュ。キラキラしたサラサラの髪は、萌々ちゃんの台詞じゃないけど、本当に王子様みたい。
 高等科に上がる直前、武田くんは髪の色を変えた。
「私。武田くんも地毛の茶髪なんだって、ずっと思ってたわぁ」
「武田くんは染めてるんだよ。もとは、綺麗な黒髪だったんだけどね。中一の終わり頃くらいかなぁ、彼が髪を染め始めたのは」
「ふーん。この前までの茶髪も似合ってたけど、今の髪色のほうが武田くんのキャラにぴったりね」
 祥徳学園は私立の進学校だけど、校則はそれほど厳しくない。髪の色は、茶色系くらいなら指導を受けることはないし。アクセサリーも制服で隠れるところになら、つけててもオッケー。
 だから、入学式にピアスをつけてきた武田くんは、その後、担任の佐伯先生に耳を引っ張られて叱られてたけど、髪の色は注意されなかった。

 あ……校則と、髪の色、かぁ。
「涼香ちゃん? どうしたの?」
「……え? あ、ごめん。ちょっと、ぼーっとしちゃった」
 いけない。つい……。
 唐突に、蘇った光景。すっかり忘れていたはずのそれを、急いで脳内から追い払う。今、思い出しても仕方ないのに。私ったら……。
「でもやっぱり、チカは涼香ちゃんの髪のほうが綺麗だと思うけどなぁ」
 不意に横から伸びたチカちゃんの指が、私の毛先をひと掬い摘まんだ。
「淡い栗色が、こうして光に透けてると金色に輝いてる。まるで、上質な絹糸がそのまま飴細工に変身したみたいなんだもん。不謹慎なことを言えば、『ちょっと美味しそう』って感じ?」
「……あ、チカちゃ……それ……」
「え? どうしたの? チカ、何か気に障ること言った?」
「あ、ううん……何でも、ない」
 何でもないの、チカちゃん。ただ、びっくりしただけ。


『――お前の栗色の髪——すげぇ綺麗——旨そうだな』


 同じことを言われたから……驚いちゃっただけ、なの。
 今、脳内から振り払った光景の中にいた人。あの時の、あの人と――。


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