キミとふたり、ときはの恋。【 君と歩く、翡翠の道】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
上 下
6 / 26
第一話

君と歩く、翡翠の道【2−2】

しおりを挟む



「じゃあ。皆、頑張ってねー!」
「ほっしー、サンキューっ。頑張ってきまーす!」
 カードにチェックしてくれた後、声援を送ってくれた保科先生に元気よく返したリーダーに続いて、また道を進む。
「おい、武田。俺の横で大声出すなら、もっと離れろよ」
「えー、いいじゃん。ほっしーに感謝を伝えてただけだろ。それよか、この前、一緒に観たNBAの――」
 もう一度振り返って、また保科先生に手を振った武田くんは、高階くんの隣を歩いてる。
「武田くん。さっきのは、酷いです。私を置いていきなり走り出したり、次は置いてけぼりにして、また皆のところに走って戻ったり。おまけに、私とはお弁当食べてくれないんですか?」
「え? 花宮ちゃん?」
 高階くんと歩いてる武田くんの横に黙って並んでた萌々ちゃんが、顔を上げてグイッと詰め寄った。
 そっか。武田くんと一緒にいるために、ずっと走ってついて回ってたのね。

「えーと、その。昼飯は皆で一緒に食おうと思ってるけど?もちろん、花宮ちゃんも一緒だよ?」
「本当ですか? 嬉しいです。それだけ聞ければ、もう充分です。あ、高階くん。武田くんとの会話をお邪魔してすみませんでした。どうぞ続けてください。私は、ここで黙ってますんで」
 武田くんの言葉ににっこり笑った萌々ちゃんが、「ささ、どうぞ遠慮なく」って片手を出して高階くんにも笑顔を見せた。
「や、別に黙ってなくてもいいよ? 花宮さんも話したいことあるでしょ?」
「えー、特にないですけど。今は、バスケの話を楽しそうにしてる武田くんをじっくり見ていたい気分なので。ですので、私にはお気遣いなく」
 たぶん萌々ちゃんに気を遣った高階くんの言葉にも、またにっこり笑って「ささ、どうぞどうぞ」と返してる姿に、うっかりクスッと笑っちゃった。微笑ましくて。
 萌々ちゃん。本当に武田くんのこと好きなのねぇ。
「涼香ちゃん。もしかして、入学式の日のことを思い出してたんじゃない?」
 横からチカちゃんがコソッと聞いてきたから、何でわかったの? ってびっくりしちゃった。
「実は、チカもなんだよねぇ」
 ニンマリと、チカちゃんが可愛く笑う。
 そっか。チカちゃんもだったんだね。おんなじだー。
「うん。だって、アレは衝撃的だったもん」
 私もコソッと返して。顔を近づけたまま、ふたりで「ふふっ」って笑い合った。
 前を歩く三人。高階くんに話しかけてる武田くんと、その武田くんをにこにこしながら見つめてる萌々ちゃんの横顔をまた見た。そうして、あの日のことをもう一度思い出す。

 学校敷地内にあるイベントホールで行われた入学式。その後、教室でのホームルームで担任の佐伯さえき先生、副担任の保科先生と顔合わせして、出席確認を兼ねながら自己紹介をし合った。
 高等科からの入学生が話しやすいように、楽しい雰囲気の自己紹介が続いた。特に武田くんの自己紹介は、チャラくて面白くて、皆で爆笑しちゃった。
 すごくいい雰囲気でホームルームが終わった後の休み時間。チカちゃんの席に集まって話してた美也ちゃんと私の横に、萌々ちゃんがスッと近づいてきて。チカちゃんの隣の席で、一緒に会話してた武田くんの正面に立って、話しかけてきた。
 ううん、宣言した。ものすごく淡々と。
「私の王子様を、やっと見つけました。私、武田くんに好きになってもらえるように頑張りますから。これから、よろしくお願いします」
「あんな風に、皆の前で堂々と言えるなんて……萌々ちゃん、すごいなぁ。私には無理だもん。尊敬しちゃう」
 本当に……好きになってすぐに告白するなんて、そんな勇気、私にはなかった。
 ずっと、ずっと。ただ、見つめるだけだった。走ってる奏人の姿を見るだけで、毎朝すごくドキドキしてた。
 それで、年上だとばかり思ってたその人が編入したクラスにいて。しかも目が合って。驚きと嬉しさとでめちゃめちゃ混乱して、挨拶の途中なのに泣いちゃったんだよね。
 お友だちになってくれたチカちゃんには私の気持ちはすぐにバレちゃって、美也ちゃんとふたりでたくさん応援の言葉をもらったけど、最初は挨拶するだけでいっぱいいっぱいだったっけ。
 だから、萌々ちゃんの勇気はすごいと思う。
 それに……ふたりっきりでも、絶対言えないわぁ。お、王子様、とかっ。

「涼香ちゃんは、大丈夫だよ」
「え、何? 何が大丈夫なの?」
「ふふっ。わかってないの?」
 大丈夫、の意味がわからなくて尋ねると、チカちゃんの笑顔がニンマリ顔に変わった。
「涼香ちゃんはね? 土岐くんを見る時、表情にめちゃめちゃ出してるからそんな心配は要らないよ、ってこと!」
「え……えっ? えぇーっ?」
 な、何? 表情って何っ? 私、普段どんな顔してるの? えぇっ?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜

八木崎(やぎさき)
青春
「どうしようもないくらいに、私は貴方に惹かれているんですよ?」 「こんなにも私は貴方の事を愛しているのですから。貴方もきっと、私の事を愛してくれるのでしょう?」 「だからこそ、私は貴方と結ばれるべきなんです」 「貴方にとっても、そして私にとっても、お互いが傍にいてこそ、意味のある人生になりますもの」 「……なら、私がこうして行動するのは、当然の事なんですよね」 「だって、貴方を愛しているのですから」  四条雪乃は大企業のご令嬢であり、学園の生徒会長を務める才色兼備の美少女である。  華麗なる美貌と、卓越した才能を持ち、学園中の生徒達から尊敬され、また憧れの人物でもある。  一方、彼女と同じクラスの山田次郎は、彼女とは正反対の存在であり、不良生徒として周囲から浮いた存在である。  彼は学園の象徴とも言える四条雪乃の事を苦手としており、自分が不良だという自己認識と彼女の高嶺の花な存在感によって、彼女とは距離を置くようにしていた。  しかし、ある事件を切っ掛けに彼と彼女は関わりを深める様になっていく。  だが、彼女が見せる積極性、価値観の違いに次郎は呆れ、困り、怒り、そして苦悩する事になる。 「ねぇ、次郎さん。私は貴方の事、大好きですわ」 「そうか。四条、俺はお前の事が嫌いだよ」  一方的な感情を向けてくる雪乃に対して、次郎は拒絶をしたくても彼女は絶対に諦め様とはしない。  彼女の深過ぎる愛情に困惑しながら、彼は今日も身の振り方に苦悩するのであった。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...