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第一話
君と歩く、翡翠の道【2−2】
しおりを挟む「じゃあ。皆、頑張ってねー!」
「ほっしー、サンキューっ。頑張ってきまーす!」
カードにチェックしてくれた後、声援を送ってくれた保科先生に元気よく返したリーダーに続いて、また道を進む。
「おい、武田。俺の横で大声出すなら、もっと離れろよ」
「えー、いいじゃん。ほっしーに感謝を伝えてただけだろ。それよか、この前、一緒に観たNBAの――」
もう一度振り返って、また保科先生に手を振った武田くんは、高階くんの隣を歩いてる。
「武田くん。さっきのは、酷いです。私を置いていきなり走り出したり、次は置いてけぼりにして、また皆のところに走って戻ったり。おまけに、私とはお弁当食べてくれないんですか?」
「え? 花宮ちゃん?」
高階くんと歩いてる武田くんの横に黙って並んでた萌々ちゃんが、顔を上げてグイッと詰め寄った。
そっか。武田くんと一緒にいるために、ずっと走ってついて回ってたのね。
「えーと、その。昼飯は皆で一緒に食おうと思ってるけど?もちろん、花宮ちゃんも一緒だよ?」
「本当ですか? 嬉しいです。それだけ聞ければ、もう充分です。あ、高階くん。武田くんとの会話をお邪魔してすみませんでした。どうぞ続けてください。私は、ここで黙ってますんで」
武田くんの言葉ににっこり笑った萌々ちゃんが、「ささ、どうぞ遠慮なく」って片手を出して高階くんにも笑顔を見せた。
「や、別に黙ってなくてもいいよ? 花宮さんも話したいことあるでしょ?」
「えー、特にないですけど。今は、バスケの話を楽しそうにしてる武田くんをじっくり見ていたい気分なので。ですので、私にはお気遣いなく」
たぶん萌々ちゃんに気を遣った高階くんの言葉にも、またにっこり笑って「ささ、どうぞどうぞ」と返してる姿に、うっかりクスッと笑っちゃった。微笑ましくて。
萌々ちゃん。本当に武田くんのこと好きなのねぇ。
「涼香ちゃん。もしかして、入学式の日のことを思い出してたんじゃない?」
横からチカちゃんがコソッと聞いてきたから、何でわかったの? ってびっくりしちゃった。
「実は、チカもなんだよねぇ」
ニンマリと、チカちゃんが可愛く笑う。
そっか。チカちゃんもだったんだね。おんなじだー。
「うん。だって、アレは衝撃的だったもん」
私もコソッと返して。顔を近づけたまま、ふたりで「ふふっ」って笑い合った。
前を歩く三人。高階くんに話しかけてる武田くんと、その武田くんをにこにこしながら見つめてる萌々ちゃんの横顔をまた見た。そうして、あの日のことをもう一度思い出す。
学校敷地内にあるイベントホールで行われた入学式。その後、教室でのホームルームで担任の佐伯先生、副担任の保科先生と顔合わせして、出席確認を兼ねながら自己紹介をし合った。
高等科からの入学生が話しやすいように、楽しい雰囲気の自己紹介が続いた。特に武田くんの自己紹介は、チャラくて面白くて、皆で爆笑しちゃった。
すごくいい雰囲気でホームルームが終わった後の休み時間。チカちゃんの席に集まって話してた美也ちゃんと私の横に、萌々ちゃんがスッと近づいてきて。チカちゃんの隣の席で、一緒に会話してた武田くんの正面に立って、話しかけてきた。
ううん、宣言した。ものすごく淡々と。
「私の王子様を、やっと見つけました。私、武田くんに好きになってもらえるように頑張りますから。これから、よろしくお願いします」
「あんな風に、皆の前で堂々と言えるなんて……萌々ちゃん、すごいなぁ。私には無理だもん。尊敬しちゃう」
本当に……好きになってすぐに告白するなんて、そんな勇気、私にはなかった。
ずっと、ずっと。ただ、見つめるだけだった。走ってる奏人の姿を見るだけで、毎朝すごくドキドキしてた。
それで、年上だとばかり思ってたその人が編入したクラスにいて。しかも目が合って。驚きと嬉しさとでめちゃめちゃ混乱して、挨拶の途中なのに泣いちゃったんだよね。
お友だちになってくれたチカちゃんには私の気持ちはすぐにバレちゃって、美也ちゃんとふたりでたくさん応援の言葉をもらったけど、最初は挨拶するだけでいっぱいいっぱいだったっけ。
だから、萌々ちゃんの勇気はすごいと思う。
それに……ふたりっきりでも、絶対言えないわぁ。お、王子様、とかっ。
「涼香ちゃんは、大丈夫だよ」
「え、何? 何が大丈夫なの?」
「ふふっ。わかってないの?」
大丈夫、の意味がわからなくて尋ねると、チカちゃんの笑顔がニンマリ顔に変わった。
「涼香ちゃんはね? 土岐くんを見る時、表情にめちゃめちゃ出してるからそんな心配は要らないよ、ってこと!」
「え……えっ? えぇーっ?」
な、何? 表情って何っ? 私、普段どんな顔してるの? えぇっ?
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