キミとふたり、ときはの恋。【 君と歩く、翡翠の道】

冴月希衣@商業BL販売中

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第一話

君と歩く、翡翠の道【1−2】

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「ところで、涼香ちゃーん」
 再出発してすぐ、皆に飴を配ってた満里奈ちゃんが私の腕にくっついてきた。
「なぁに? 満里奈ちゃん」
「さっき、スマホの画面見ながら盛大にニヤついてたけどぉ。土岐くんから、どんな甘い言葉が送られてきたの? 教えてよう」
「えっ? あま、あまままっ?」
「ぷっ! 慌てすぎだってば! その様子だと、デロ甘すぎて砂をジャリジャリ吐きそうなのが送られてきたと見たよ? ほら、白状してみなされ!」
「デロ甘? よくわかんないけど、砂は大丈夫よ? だって――」
 ほらほら、と、くっついた腕をグリグリしてきた満里奈ちゃんに、奏人がもう次のチェックポイントに到着したことを話した。
「え? たった、それだけ? メッセージ、それだけ?」
「うん、これだけよ?」
「うあぁ! 何なの? リアル土岐くんの、その素っ気なさは! 二次創作における奏武のほうが、もっと甘い台詞バンバン垂れ流してるわよっ? そんなんじゃあ、次回作の参考にもならないじゃん!」
 グリグリされてたはずの腕が、今度はグリングリンと横に振られた。『次回作の参考』って……満里奈ちゃん、また取材してたのね?

 満里奈ちゃんの所属する文芸部では、定期的に色んなジャンルの文集を発行してるらしいんだけど、その中でも常に売上トップなのが、BLジャンル。
 常に、というより、もう何年も不動の一位らしくて。今では文芸部の文集と聞けば、『あぁ、アレか……』と男子が遠い目で反応して、女子からは『キャーッ! アレよねっ?』と興奮した雄叫びが上がるというお話。
 特に、今の部長さんの作品は大人気で、発行されるたびに即、完売。その文集を読んだことがない女生徒は皆無、という噂まであるんだとか。
 でも、ごめんなさい。私、満里奈ちゃんと知り合うまで全然知らなかったの。BLのことは何となく知ってたけど、読んだことなかったから。
 二ヶ月前のバレンタインデー。その日に行われた奏人のバスケの試合会場で、初めて満里奈ちゃんから話しかけられた。
 その時、満里奈ちゃんは文芸部の作品作りのための取材で試合を観に来てて、試合相手の選手、司波竜星しばりゅうせいくんと奏人のことについて聞かれたんだっけ。

 そういえば、司波くんは元気かしら? 来月の半ばに、また耀光学院との練習試合があるって奏人が言ってたけど。
 でも、実は私。司波くんよりも、マネージャーの山吹やまぶきさんに会えることのほうが楽しみなんだよねー。
 山吹さんって、スラッと背は高いし、動きはきびきびしてるし。声も低めだし、話し方もイケメン。まるで宝塚の男役みたいで、ほんとにカッコいいんだもの。憧れちゃう! それに――。
「……ちゃん……涼香ちゃん!」
「……え?」
「もう! さっきから何度も呼んでるのに。下を向いたまんま歩いてたら危ないんだからね?」
「あ、ごめんなさい。うん、気をつけるね」
 ポンポンと肩を叩いて注意してくれた満里奈ちゃんに謝った。
 気がつけば、いつの間にか河川敷寄りの道が広がっていて、大きなグラウンドが幾つも続いてる平面コースになっていた。草野球チームが何チームも集まって試合してる。平日なのに。そうだね。下ばかり見て歩いてたらボールが飛んできても気づかないもんね。
「涼香ちゃん、何か考え事?」
「えっ! 何にも? 何にもないよ。ぼーっとしてただけなの。ごめんね?」
 満里奈ちゃんの向こうから美也ちゃんが心配そうに聞いてくれるから、イケメン女子のことを考えてウキウキしてました、なんて言えなくて困っちゃった。
「美也ちゃん、無粋なこと聞いちゃ駄目だよぉ。すごくニマニマしてたから、土岐くんのこと考えてたに決まってるじゃん。野暮なことは言いっこナシよん」
「満里奈ちゃーん。『無粋』とか『野暮』とか、使用ワードがシブいわねぇ」
「あ、うっかり出てた? 実は今、新選組BLを書いててさ。頭の中がその世界にイッちゃってるんだよねー。それはそうと、土岐くんとのどんなことを思い出してたの?」
 マイク代わりのペットボトルを差し出しながら質問されたけど、ほんとに奏人のことじゃないから正直に答えた。
「えっ、違うよ。奏人のことじゃないもん」
「――それは、聞き捨てならないね。涼香」
「えっ?」
 今の声……。

「どう? 今の、似てた?」
「チカちゃん!」
 背後から突然かけられた声は、チカちゃんだった。私の親友、秋田正親あきたまさちかくん。
「ね、どうだった? 声は真似出来ないけど、口調は土岐くんにそっくりだったでしょ?」
「もう! チカちゃんてば、びっくりしたよ? あ、奏人に似てたからじゃなくて、いきなり声が聞こえてきたから、だからね?」
「そうそう! 涼香ちゃんの言う通り。ね、美也ちゃん?」
「そうね。チカちゃんの声で土岐くんの物真似は、かなり無理があるわよねぇ」
「えーっ? ひどいよ、三人とも。チカ、これでも土岐くんとは十年以上つき合ってきてるんだよ? 声変わりする前の土岐くんって、こんな感じだったんだってば!」
「えぇっ? ね、ねぇ、チカちゃん! そこのところ、もっと詳しくっ!」
 私、満里奈ちゃん、美也ちゃんからの辛めの感想に返ってきたチカちゃんの言葉。それに、めちゃめちゃ反応しちゃった。
 声変わりする前の奏人! どんな声だったのか、すっごく知りたいっ!

「『もっと詳しく』って、土岐くんの声のことだよね? 声変わり前って、たいていの子は声が高いけど、その中で土岐くんはわりと低めの声だったんだよ。だから、ちょうど今のチカくらいの声質なの」
「へぇ、奏人が? ――そうだったの?」
 最初のは、チカちゃんに対して。そして後のは、隣にいる美也ちゃんと満里奈ちゃんに向けて尋ねた。
 奏人の声は、柔らかな甘いテノール。チカちゃんの話だと、昔は低めで、今は他の男子よりも少し高めってことになるよね?
「うーん、そんなような気もするけど……正直言って、私はその頃の土岐くんとはあんまり接点がなかったから自信はないなぁ。美也ちゃんは?」
「うん、私も同じかな。幼稚舎から一緒だけど、土岐くんは女の子とは全然遊ばない人だったし」
「だよねー。女子の中で土岐くんとよく喋ってたのって、鮎佳ちゃんくらいじゃない?」
「へ、へぇ……そうなんだ」
 満里奈ちゃんの言葉に、ドキっとした。満里奈ちゃんと美也ちゃんの会話に出てきた人の顔が、瞬時に浮かぶ。
 都築鮎佳つづきあゆかさん。バスケ部のマネージャーさんで。
 ——たぶん、奏人のことを好きな人、だ。


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