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壱
喋る猫とお友だちに 【2】
しおりを挟むはっ! 待てよ。じゃあ、あれが叶うじゃないか。
幼少の頃からの、僕の夢。“あれ”が!
「お二方! 突然のぶしつけなお願いではありますが、僕とお友だちになってください! お願いします!」
くそ真面目すぎるくらいの几帳面。そのせいで、あまり友人がいない僕だけど、猫だけは別だった。
無類の猫好き。どんなに緊張感みなぎる時でも、猫をひと目見ると途端にふにゃふにゃしてしまう僕の、究極の願い。
『猫ちゃんと何でも話せる友だちになって、もふもふな間柄になりたーい!』
今こそ、あれが叶うかもしれない。
「友だち? 俺は馴れ合いを嫌う孤高の親分だが、慕ってくる奴は可愛がってやる主義だからな。いいぜ」
「アタシも構わないわよー。大陸にも京の都にも、美しいアタシの信奉者はたくさんいるし。あんたも、そのひとりに加えてあげる」
「ありがとうございますっ」
やった。了解してもらえた!
二匹とも親分肌まる出しの、上から目線。子分扱いかなとも思うけど、全然構わない。
「僕、藤原通頼と申します。年は、十九歳です。父は宮中で参議を務めております。僕も、先だっての除目で新蔵人に任じていただきました。よろしくお願いいたします」
友だちになった後でって少しおかしいけど、まずは自己紹介だ。
あ、でもこれ、少しお堅いかな? 友だちなんだから、僕のもふもふ愛の深さについて語ったほうがいいのだろうか。
それに、猫ちゃん相手に、父が参議って言っても通じるわけがない。そうだ、言い直しを……。
「通頼か。俺は、なんかよくわからないが、中将って呼ばれてる藤原雅人の家に住んでやってる、あわびだ。『あわび様』って呼んでいいぞ」
……え……。
「中将の雅人? あら、どっかで聞いた名前ね。ま、いっか。通頼ちゃん。アタシはね、大津大納言の長子、藤原光成ちゃんの飼い猫なの。光成ちゃんって、美しいアタシにふさわしい、超絶美麗な若者なのよぅ。あ、アタシのことは、朱鷺丸って呼んでねっ」
藤原雅人様に、藤原光成様? 僕は、どちらの御方もよく存じ上げているのだが?
かたや蔵人所の長、頭中将様。もうおひと方は、六位蔵人。つまり、僕にとっては、上司と先輩だ。
「……っ。よよ、よろしくお願っ……お願い、いたたっ……いたしますっ!」
人語を話すとても珍しい猫ちゃんたちと友だちになれて最高に舞い上がっていたら、その二匹ともが職場(蔵人所)でいつも顔を合わせる方々の家猫だったと判明した。
激しい動揺で、かちかちと歯を震わせながら挨拶を返した僕の鼻先を、ぶいんっと音を立て、茜とんぼが横切っていく。
そろそろ、秋だなぁ。
うん。やっぱり、これって、残暑が見せてきた幻……。
「おい、通頼。早速だが、腹へった。食いもん持ってないか? お前が持ってないなら、参議の家まで食いに行ってやってもいいぞ」
……じゃ、なかったみたい。思いっきり現実ぅ……。
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