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第二章

chapter【2】

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「おっ邪魔っしまぁーすっ!」
「はい、ようこそお越しくださいました。さ、武田くん。遠慮なくあがってください」
 途中、煌兄ちゃんへの手土産を選ぶのに迷いに迷い、お店からなかなか出られなかった武田くんに、悪いけどちょっと焦れた。なので、『煌兄ちゃんの大好物はアライグマ饅頭、デロ甘カスタード味ですよ』と耳打ちし、サッサと家に連れ込むことに成功しました。
 煌兄ちゃんのほんとの好物は激辛柿ピーだけど、真実はしばらく内緒です。
「うほっ、めっちゃ緊張するぅ……あ、あれ? お家の人は? お母さんとか」
「両親は留守です。二人とも、日中はお店にいるんですよ。あ、武田くん。どうぞ、ここに座ってください。お茶のご用意をしてきますね」
 リビングに案内し、予め〝ある位置〟へと移動させておいたソファーへと、武田くんを誘《いざな》った。
「あー、お店かぁ。花宮ちゃんの家って、確か江戸時代から続いてる呉服屋さんだったっけ。老舗を守ってくのって大変だもんな。ご両親も忙しいんだろうなぁ」
「武田くんのお宅こそ、歯科クリニックをご両親でされてるじゃないですか。うちより断然お忙しいでしょう?」
 狙った通りの場所へと座ってくれた武田くんと互いの共働きの両親の話をし、「てゆうか親も大変だけど、いつもちゃんと留守番してた俺らが一番エラくね?」っていう彼の意見に激しく同意しながら、お茶を差し出した。
 そのまま、武田くんの向かいに座る。『スペシャルミッションその② 武田くんをソファーに座らせる』に成功したから、次のミッションに移るためです。
「ところで、武田くん。武田くんは、煌兄ちゃんのどこに憧れちゃってるんですか? 煌兄ちゃんみたいなムッ……いえ、無愛想男子のどこが良いのか、教えてください」
 うっかり『ムッツリ』って言いかけてしまったから、一応言い直しをした。
 正直、家でもたいていムスッとしてる煌兄ちゃんなんかムッツリ呼ばわりで充分なんだけど、目的遂行を素早く行うため、ここはグッと我慢です。
「えっ、『どこ』って言われてもぉ……まずドリブルのスピードとテクニックがすごくて、まるでコート上の黒豹? あと、相手が何人止めに来ようが構わずにダンク決めにいっちゃう気迫と身体能力がゾクゾクするくらい、すっげーカッコいいしぃ……えぇっと、あとはぁ……」
「あ、わかりました。充分、伝わったので、もういいです」
 両手の手のひらを相手に向け、ジェスチャーでも気持ちを伝える。「あとはぁ、流れる汗をTシャツの裾まくって拭いてる時の顔と、そん時チラ見せになる腹の筋肉が堪らなくセクシーっす! 一度でいい。宮さまのTシャツになりたい!」まで聞いたところで、もう勘弁、と止めることにした。
 頬を染めて一生懸命話してくれる武田くんはめちゃめちゃ魅力的だけど! その対象が煌兄ちゃんだと思うだけで、どんより萎えきっちゃう。

「あ! そういえば! 武田くんの横にたたんであるカーディガン、煌兄ちゃんのでした! 良かったら、それ、羽織ってみますか?」
 なので、もういきなり本題。つまり、『スペシャルミッションその③ 武田くんに煌兄ちゃんのカーデを羽織らせる』を(強引に)開始することにしました。
「えっ? こ、こっ、これっ! 宮さまの私物なん? マジっ?」
「はい、マジです。羽織っちゃっていいですよ」
 私の唐突な、そして棒読みなセリフに何の疑問も抱かず、煌兄ちゃんのカーデを指差して興奮してる相手に、ぜひぜひ! と声と身振りで勧める。
「ふえぇっ、マジかぁ。宮さま、モノトーンのイメージがあったけど、こういう爽やか系も着るんかぁ。おまけに、なんかイイ匂いするぅ。何の香りかしらっ? ふあぁ、やばい、やばい! どうしよう! 慎ちゃん、ドキドキしちゃうっ!」
 やっとカーデを手に取ってくれたものの、今度は捧げ持つようにしてスーハーと匂いを嗅ぎ出されてしまった。
 夢見る妄想顔の武田くんもとっても愛らしいけど、煌兄ちゃんの匂い(厳密には柔軟剤のスイートフルーティーアロマの香り)を嗅いでる姿なので、愛らしさは九割引き。
「煌兄ちゃんの匂い、堪能しましたか? じゃあ、サクッと着ちゃってください。はい、右手を出して!」
 カーデを奪ってチャチャッと着せることにしました。
「うん。ミントグリーンだから、武田くんのほうが似合ってますよ。でも、少しだけ肩幅が大きいかなー? うーん、袖丈もー。武田くんのほうが、少しだけ華奢なんですねー。身長差のぶんかなー」
 前半は心からの感想。後半は、今回のミッションの中核の部分に当たるので、めちゃめちゃ棒読み。喋りながらも素早く、サイズが合わないぶんを計測していく。
 よし、オッケー! 『ラストミッション・なんだかんだ言いくるめて武田くんの肩幅と袖丈を測る』終了!
 スペシャルミッション、コンプリート! 完遂! オールクリアしました!
 今年の夏は、武田くんに私の手縫いの浴衣を着てもらうんです。そのための自宅へのご招待でした。身長と体重は知ってるけど、それ以外の情報を得る必要があったから。
 よーし。武田くんに贈る浴衣製作、めちゃめちゃ頑張っちゃいますよっ。


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