4 / 9
第二章
chapter【2】
しおりを挟む「おっ邪魔っしまぁーすっ!」
「はい、ようこそお越しくださいました。さ、武田くん。遠慮なくあがってください」
途中、煌兄ちゃんへの手土産を選ぶのに迷いに迷い、お店からなかなか出られなかった武田くんに、悪いけどちょっと焦れた。なので、『煌兄ちゃんの大好物はアライグマ饅頭、デロ甘カスタード味ですよ』と耳打ちし、サッサと家に連れ込むことに成功しました。
煌兄ちゃんのほんとの好物は激辛柿ピーだけど、真実はしばらく内緒です。
「うほっ、めっちゃ緊張するぅ……あ、あれ? お家の人は? お母さんとか」
「両親は留守です。二人とも、日中はお店にいるんですよ。あ、武田くん。どうぞ、ここに座ってください。お茶のご用意をしてきますね」
リビングに案内し、予め〝ある位置〟へと移動させておいたソファーへと、武田くんを誘《いざな》った。
「あー、お店かぁ。花宮ちゃんの家って、確か江戸時代から続いてる呉服屋さんだったっけ。老舗を守ってくのって大変だもんな。ご両親も忙しいんだろうなぁ」
「武田くんのお宅こそ、歯科クリニックをご両親でされてるじゃないですか。うちより断然お忙しいでしょう?」
狙った通りの場所へと座ってくれた武田くんと互いの共働きの両親の話をし、「てゆうか親も大変だけど、いつもちゃんと留守番してた俺らが一番エラくね?」っていう彼の意見に激しく同意しながら、お茶を差し出した。
そのまま、武田くんの向かいに座る。『スペシャルミッションその② 武田くんをソファーに座らせる』に成功したから、次のミッションに移るためです。
「ところで、武田くん。武田くんは、煌兄ちゃんのどこに憧れちゃってるんですか? 煌兄ちゃんみたいなムッ……いえ、無愛想男子のどこが良いのか、教えてください」
うっかり『ムッツリ』って言いかけてしまったから、一応言い直しをした。
正直、家でもたいていムスッとしてる煌兄ちゃんなんかムッツリ呼ばわりで充分なんだけど、目的遂行を素早く行うため、ここはグッと我慢です。
「えっ、『どこ』って言われてもぉ……まずドリブルのスピードとテクニックがすごくて、まるでコート上の黒豹? あと、相手が何人止めに来ようが構わずにダンク決めにいっちゃう気迫と身体能力がゾクゾクするくらい、すっげーカッコいいしぃ……えぇっと、あとはぁ……」
「あ、わかりました。充分、伝わったので、もういいです」
両手の手のひらを相手に向け、ジェスチャーでも気持ちを伝える。「あとはぁ、流れる汗をTシャツの裾まくって拭いてる時の顔と、そん時チラ見せになる腹の筋肉が堪らなくセクシーっす! 一度でいい。宮さまのTシャツになりたい!」まで聞いたところで、もう勘弁、と止めることにした。
頬を染めて一生懸命話してくれる武田くんはめちゃめちゃ魅力的だけど! その対象が煌兄ちゃんだと思うだけで、どんより萎えきっちゃう。
「あ! そういえば! 武田くんの横にたたんであるカーディガン、煌兄ちゃんのでした! 良かったら、それ、羽織ってみますか?」
なので、もういきなり本題。つまり、『スペシャルミッションその③ 武田くんに煌兄ちゃんのカーデを羽織らせる』を(強引に)開始することにしました。
「えっ? こ、こっ、これっ! 宮さまの私物なん? マジっ?」
「はい、マジです。羽織っちゃっていいですよ」
私の唐突な、そして棒読みなセリフに何の疑問も抱かず、煌兄ちゃんのカーデを指差して興奮してる相手に、ぜひぜひ! と声と身振りで勧める。
「ふえぇっ、マジかぁ。宮さま、モノトーンのイメージがあったけど、こういう爽やか系も着るんかぁ。おまけに、なんかイイ匂いするぅ。何の香りかしらっ? ふあぁ、やばい、やばい! どうしよう! 慎ちゃん、ドキドキしちゃうっ!」
やっとカーデを手に取ってくれたものの、今度は捧げ持つようにしてスーハーと匂いを嗅ぎ出されてしまった。
夢見る妄想顔の武田くんもとっても愛らしいけど、煌兄ちゃんの匂い(厳密には柔軟剤のスイートフルーティーアロマの香り)を嗅いでる姿なので、愛らしさは九割引き。
「煌兄ちゃんの匂い、堪能しましたか? じゃあ、サクッと着ちゃってください。はい、右手を出して!」
カーデを奪ってチャチャッと着せることにしました。
「うん。ミントグリーンだから、武田くんのほうが似合ってますよ。でも、少しだけ肩幅が大きいかなー? うーん、袖丈もー。武田くんのほうが、少しだけ華奢なんですねー。身長差のぶんかなー」
前半は心からの感想。後半は、今回のミッションの中核の部分に当たるので、めちゃめちゃ棒読み。喋りながらも素早く、サイズが合わないぶんを計測していく。
よし、オッケー! 『ラストミッション・なんだかんだ言いくるめて武田くんの肩幅と袖丈を測る』終了!
スペシャルミッション、コンプリート! 完遂! オールクリアしました!
今年の夏は、武田くんに私の手縫いの浴衣を着てもらうんです。そのための自宅へのご招待でした。身長と体重は知ってるけど、それ以外の情報を得る必要があったから。
よーし。武田くんに贈る浴衣製作、めちゃめちゃ頑張っちゃいますよっ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
恋ぞつもりて
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【恋ぞつもりて】いや増す恋心。加速し続ける想いの終着点は、どこ?
瀧川ひかる——高校三年生。女子バレー部のエースアタッカー。ベリーショート。ハスキーボイスの気さくな美人さん。相手を選ばずに言いたいことは言うのに、さっぱりした性格なので敵を作らない。中等科生の頃からファンクラブが存在する皆の人気者。
麻生凪——高校一年生。男子バレー部。ポジションはリベロ。撮り鉄。やや垂れ気味の大きな目のワンコ系。小学一年生の夏から、ずっとひかるが好き。ひーちゃん至上主義。十年、告白し続けても弟扱いでまだ彼氏になれないが、全然諦めていない。
「ひーちゃん、おはよう。今日も最高に美人さんだねぇ。大好きだよー」
「はいはい。朝イチのお世辞、サンキュ」
「お世辞じゃないよ。ひーちゃんが美人さんなのは、ほんとだし。俺がひーちゃんを好きなのも本心っ。その証拠に、毎日、告ってるだろ?」
「はい、黙れー。茶番は終わりー」
女子バレー部のエースアタッカー。ベリーショートのハスキーボイス美人が二つ年下男子からずっと告白され続けるお話。
『どうして、その子なの?』のサブキャラ、瀧川ひかるがヒロインです。
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
桃は食ふとも食らはるるな
虎島沙風
青春
[桃は食っても歳桃という名の桃には食われるな]
〈あらすじ〉
高校一年生の露梨紗夜(つゆなしさや)は、クラスメイトの歳桃宮龍(さいとうくろう)と犬猿の仲だ。お互いのことを殺したいぐらい嫌い合っている。
だが、紗夜が、学年イチの美少女である蒲谷瑞姫(ほたにたまき)に命を狙われていることをきっかけに、二人は瑞姫を倒すまでバディを組むことになる。
二人は傷つけ合いながらも何だかんだで協力し合い、お互いに不本意極まりないことだが心の距離を縮めていく。
ところが、歳桃が瑞姫のことを本気で好きになったと打ち明けて紗夜を裏切る。
紗夜にとって、歳桃の裏切りは予想以上に痛手だった。紗夜は、新生バディの歳桃と瑞姫の手によって、絶体絶命の窮地に陥る。
瀕死の重傷を負った自分を前にしても、眉一つ動かさない歳桃に動揺を隠しきれない紗夜。
今にも自分に止めを刺してこようとする歳桃に対して、紗夜は命乞いをせずに──。
「諦めなよ。僕たちコンビにかなう敵なんてこの世に存在しない。二人が揃った時点で君の負けは確定しているのだから」
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
キミとふたり、ときはの恋。【冬萌に沈みゆく天花/ふたりの道】
冴月希衣@商業BL販売中
青春
『キミとふたり、ときはの恋。【いざよう月に、ただ想うこと】』の続編。
【独占欲強め眼鏡男子と、純真天然女子の初恋物語】
女子校から共学の名門私立・祥徳学園に編入した白藤涼香は、お互いにひとめ惚れした土岐奏人とカレカノになる。
付き合って一年。高等科に進学した二人に、新たな出会いと試練が……。
恋の甘さ、もどかしさ、嫉妬、葛藤、切なさ。さまざまなスパイスを添えた初恋ストーリーをお届けできたら、と思っています。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
表紙:香咲まりさん作画
ハーフムーン
オダ暁
青春
<内容紹介>
大学生のあたし、が大失恋の経験と隣人かれんさんとの間に芽生える友情
<登場人物>
あたし
主人公の美大生。江崎省吾の絵のモデルになる。恋の相談をマンションの隣人かれんさんにしばしばするほどの親密な関係。
かれんさん
主人公のマンションの隣の住人。陰の主人公とも言える愛すべき存在。LGBTの社会的意義やレゾンデートルを問いかける。
江崎省吾
天才肌のイケメン大学生。彼女も作らずフリーな噂。主人公のあたしが思い焦がれ、告白作戦に出るが?
柘植尚人
超美形な大学生。江崎省吾と親しいが省吾と違いガールフレンドを次々に変える遊び人と噂されている。
マリ
あたし、の大学のクラスメート。恋のもつれから主人公のあたしと疎遠になる。
窓際の君
気衒い
青春
俺こと如月拓也はとある一人の女子生徒に恋をしていた。とはいっても告白なんて以ての外。積極的に声を掛けることすら出来なかった。そんなある日、憂鬱そうに外を見つめるクラスメイト、霜月クレアが目に入る。彼女の瞳はまるでここではないどこか遠くの方を見ているようで俺は気が付けば、彼女に向かってこう言っていた。
「その瞳には一体、何が映ってる?」
その日を境に俺の変わり映えのしなかった日常が動き出した。
キミとふたり、ときはの恋。【立葵に、想いをのせて】
冴月希衣@商業BL販売中
青春
『キミとふたり、ときはの恋。【 君と歩く、翡翠の道】』の続編。
【独占欲強め眼鏡男子と、純真天然女子の初恋物語】
女子校から共学の名門私立・祥徳学園に編入した白藤涼香は、お互いにひとめ惚れした土岐奏人とカレカノになる。
付き合って一年。高等科に進学した二人に、新たな出会いと試練が……。
恋の甘さ、もどかしさ、嫉妬、葛藤、切なさ。さまざまなスパイスを添えた初恋ストーリーをお届けできたら、と思っています。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
『君と歩く、翡翠の道』の続編です。
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
表紙:香咲まりさん作画
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる