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第六章
風のゆくえ【2】
しおりを挟む「はあぁ? 告白しないぃ?」
お母さんとの会話を説明した後、ひかるにその決意を告げた。
「なんでっ? どうしてよ。私、土岐くんに予定空けてもらってるのよ? 今がチャンスじゃん。なんで、それをしないのよっ!」
想定通り、両肩を掴んでブルブル揺らされながら問い詰められた。なぜ、と。
「うん、しない。その必要がなくなったから」
「必要が、なくなった? どういうこと?」
私の肩から手を離し、聞く姿勢を取ってくれた相手に、静かに言葉を継ぐ。
「ひかる、言ってくれたよね。『ジメジメ引きずるのもアリ』だって。『想いを引きずりながら、みっともなく前に進もう』って。私、そうするつもりよ」
「なら! なんで告白しないのよ」
「逆に聞くけど、それは告白しないと出来ないこと?」
「え?」
「私ね、玉砕するのが嫌で、告白しないって言ってるんじゃないの。まぁ確かに、そのこと自体は怖いけど、だから告白しない選択をしたんじゃない。怖いことは、別にある」
「怖いこと?」
「彼のことよ」
「土岐、くん?」
「そう。長年の片想いにけりをつけるためだけの目的で告白したとして、そのことで彼の態度が変わってしまうのが、私はやっぱり嫌だ。怖い。私への変な気遣いもさせたくない。そうなるくらいなら、告白なんかしなくていい」
「鮎佳……」
「ごめんね。あれこれ気遣って根回しまでしてくれたのに、土壇場でこんな後ろ向きなこと言い出して。でもね。好きだからこそ、彼の心に一点の曇りも作りたくないの。彼女ひとりだけを真っ直ぐに想ってる彼の『ただの幼なじみ』で、私はずっといたい」
「鮎佳、ごめん!」
「えっ、何? どうしたの?」
最後に、勝手な決意を固めたことをもう一度謝ろうと思っていたら、ひかるのほうから謝られた。ぎゅっと抱きしめながら。
「ごめん、本当に。私、鮎佳のこと、見誤ってた。私が何もしなくても、ちゃんと自分で潔く決断できる鮎佳だったのに。親友なのに、そこを見てなかった。余計なことして恥ずかしい」
潔くなんかない。後ろ向きすぎて、恥ずかしいのは私のほうだ。
なのに、抱きしめてくれる親友の声が震えてるから、伝わってくる愛情が私の胸を震わせるから、何も言えなくなった。
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