上 下
13 / 29
第四章

ふたりの時間【1】

しおりを挟む



「ちょっと、ひかるっ! 何なのっ。さっきの、あれ!」
 金曜日の放課後。ふたりきりになった教室内に、私の感情的な叫びが響いていく。
 部活や委員会、それぞれの目的地にクラスメートが散らばっていった後の、がらんとした教室。ドアは閉め切ってあるけど、きっと廊下にも私の声は漏れてしまっているだろう。
 普段なら、絶対にこんなことはしない。でも、今日だけは止められない。
「私、言ったわよね! 『余計なことするのはやめて』って!」
「えー? 私だって言ったよ? 『〝余計なこと〟は、なぁんにも企んでないよ』って。鮎佳こそ、あの時のこと覚えてないのぉ?」
 私の詰問に飄々とした悪びれない笑みを向けてくる親友のせいで、声を荒げてしまう。
「だから、それをやめてって言っておいたんじゃない。なのに、さっきのあれはどういうつもりよ!」
「んー? どういうつもりも何も、今の鮎佳には必要なことだと思ったから、行動させてもらったよ。それに、ぶっちゃけ、時期的にちょうどいいじゃん? それだけー」
「ちょうどいいって、そんな理由でっ……」
「第一、肝心の土岐くんが了承したんだから、今更ここで鮎佳がごちゃごちゃ言っても仕方ないのよ。クラスの皆の同意も得られてるんだから観念して頑張って? さーて、私は部活があるから、もう行きまーす。鮎佳もバスケ部の練習、早く行けばー?」
「あっ……待ちなさい! ひかるっ!」
 私の呼びかけに立ち止まることなく、長身の後ろ姿は教室から出ていってしまう。ひらひらと片手を振ってみせながら、一度も振り向くことなく。
 その態度で、充分伝わってくる。今日起きたことは、ひかるなりに私のためを思ってしてくれたことなんだって。
 ううん、最初からわかってた。ただ、私がそれをすぐに受け入れるのが怖かっただけ。
「ぶっちゃけ、ちょうどいい、か……あの子、他に言いようがなかったのかしら。全く」
 苦笑しながら、ひとりごちる。そして、ついさっき行われていたホームルームでの出来事に意識を向けた。
 今日の議題は、十月下旬に開催される学園祭について。その執行役としての実行委員の選出に入った時、ひかるが手を挙げた。委員長が、立候補者と推薦の対象者、双方を募ったからだ。

『実行委員の適任者がいるので、推薦したいと思います。土岐くんと都築さん! お願いします!』

 突然のことに私がうろたえている間に、委員長に意志を確認されたかーくんが、即、了承し。私も引き受けざるを得なくなった。
「あと三週間、か……」
 部活に向かうため、廊下を早足で歩きながら呟く。
 中間テストが終わり、二学期最大の行事、学園祭まで約三週間。それまでずっと、実行委員として、かーくんと行動を共にすることになる。
「はあぁ……」
 今度は、大きな溜め息が零れ出た。
 色々なことに忙殺されるだろう日々は、きっとあっという間に過ぎ去るだろう。
 その限られた時間内に、かーくんへの気持ちにけりをつけなければいけない。ひかるが私に彼との『ふたりの時間』をくれた本当の理由は、きっとそのためだ。
「――ねぇ、歌鈴?」
 バスケットアリーナに繋がる渡り廊下。通路脇の花壇の前で、おもむろに足を止める。秋風が頬を撫で、髪とスカートを軽くなびかせた。
「ひかるがね、私のために余計なお世話を焼いてくれてるの。要らぬお節介? 過保護? そんな感じの、あれよ」
 さやさやと風に揺れるコスモスの淡紅色を目に映しながら、さっきよりも格段に明るい苦笑と溜め息が零れていく。
「ほんと、私の親友には困ったものだ。揃いも揃って、かなりな心配性なんだから」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

高校デビューした美少女はクラスの美少女といちゃつく

明応わり
青春
高校デビューをした柚木真凛は周りと仲良くなり陽キャ女子グループの仲間になった。一方幼馴染の浅倉圭介はぼっちになり静かな生活をし2年生になった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[1分読書]彼女を寝取られたので仕返しします・・・

無責任
青春
僕は武田信長。高校2年生だ。 僕には、中学1年生の時から付き合っている彼女が・・・。 隣の小学校だった上杉愛美だ。 部活中、軽い熱中症で倒れてしまった。 その時、助けてくれたのが愛美だった。 その後、夏休みに愛美から告白されて、彼氏彼女の関係に・・・。 それから、5年。 僕と愛美は、愛し合っていると思っていた。 今日、この状況を見るまでは・・・。 その愛美が、他の男と、大人の街に・・・。 そして、一時休憩の派手なホテルに入って行った。 僕はどうすれば・・・。 この作品の一部に、法令違反の部分がありますが、法令違反を推奨するものではありません。

家庭訪問の王子様

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【片想いって、苦しいけど楽しい】 一年間、片想いを続けた『図書館の王子様』に告白するため、彼が通う私立高校に入学した花宮萌々(はなみやもも)。 ある決意のもと、王子様を自宅に呼ぶミッションを実行に移すが——。 『図書館の王子様』の続編。 『キミとふたり、ときはの恋。』のサブキャラ、花宮萌々がヒロインです。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

大好きだ!イケメンなのに彼女がいない弟が母親を抱く姿を目撃する私に起こる身の危険

白崎アイド
大衆娯楽
1差年下の弟はイケメンなのに、彼女ができたためしがない。 まさか、男にしか興味がないのかと思ったら、実の母親を抱く姿を見てしまった。 ショックと恐ろしさで私は逃げるようにして部屋に駆け込む。 すると、部屋に弟が入ってきて・・・

恋ぞつもりて

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【恋ぞつもりて】いや増す恋心。加速し続ける想いの終着点は、どこ? 瀧川ひかる——高校三年生。女子バレー部のエースアタッカー。ベリーショート。ハスキーボイスの気さくな美人さん。相手を選ばずに言いたいことは言うのに、さっぱりした性格なので敵を作らない。中等科生の頃からファンクラブが存在する皆の人気者。 麻生凪——高校一年生。男子バレー部。ポジションはリベロ。撮り鉄。やや垂れ気味の大きな目のワンコ系。小学一年生の夏から、ずっとひかるが好き。ひーちゃん至上主義。十年、告白し続けても弟扱いでまだ彼氏になれないが、全然諦めていない。 「ひーちゃん、おはよう。今日も最高に美人さんだねぇ。大好きだよー」 「はいはい。朝イチのお世辞、サンキュ」 「お世辞じゃないよ。ひーちゃんが美人さんなのは、ほんとだし。俺がひーちゃんを好きなのも本心っ。その証拠に、毎日、告ってるだろ?」 「はい、黙れー。茶番は終わりー」 女子バレー部のエースアタッカー。ベリーショートのハスキーボイス美人が二つ年下男子からずっと告白され続けるお話。 『どうして、その子なの?』のサブキャラ、瀧川ひかるがヒロインです。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

キミとふたり、ときはの恋。【冬萌に沈みゆく天花/ふたりの道】

冴月希衣@商業BL販売中
青春
『キミとふたり、ときはの恋。【いざよう月に、ただ想うこと】』の続編。 【独占欲強め眼鏡男子と、純真天然女子の初恋物語】 女子校から共学の名門私立・祥徳学園に編入した白藤涼香は、お互いにひとめ惚れした土岐奏人とカレカノになる。 付き合って一年。高等科に進学した二人に、新たな出会いと試練が……。 恋の甘さ、もどかしさ、嫉妬、葛藤、切なさ。さまざまなスパイスを添えた初恋ストーリーをお届けできたら、と思っています。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission. 表紙:香咲まりさん作画

処理中です...