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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【4−12】
しおりを挟む薄いオレンジ色から、鮮やかな照柿《てりがき》色。そして茜色へと、刻々と変化していく夕暮れの光の中。その色彩を反射する眼鏡の奥の黒瞳が甘くせつない揺らめきを見せ、とろりと私を絡めとってくる。
私が強く思っていたのと同じ言葉を伝えてくれた声が、耳元で鼓膜をじわりと震わせた。
「せっかく、また会えるようになったのに。寂しいよ、すごく。早く帰ってきてほしいって思ってる」
「奏人……」
「だから、涼香のほうから来てくれる?」
両手が広げられ、私を捕らえていた目線がさらに強くなった。
抗えない。だって、私も近づきたい。
捕まえたいの。このひとを。この手で。
「奏人ぉ」
「ん、可愛いね」
私が逞しい胸に飛び込んだのと同時に、奏人が眼鏡を外した。
すぐに熱い唇が重なって、熱と吐息が混じり合う。至近距離で見つめ合う瞳がとろりと濡れて、その煌めく黒の中に私の瞳の色が取り込まれていく。
嬉しい。
熱と吐息だけじゃなく、私と奏人が持つ互いの色も混じり合ってるのが、目で確認できる。たったこれだけのことが、とても嬉しい。
「涼香。まだ、いい?」
「ん」
アップにした髪に沿うように奏人の指に支えられた頭は、熱っぽく角度を変えながら交わされ続ける口づけに、だんだんと蕩けていく。
「まだ、キスしてたい。いい?」
「ぁ……奏人、もっとっ」
私だけに与えられる奏人の甘くねだる声は、このひと時をもっと引き延ばしてほしいと願ってる私を優越感でおかしくさせる。
そして、『もっと』と、はしたなく希《こいねが》う言葉すら簡単に告げさせてしまうの。
奏人の首に回した手にも、『もっと、もっと』と、恥ずかしいくらいに力を込めてしまう。
奏人が私の腰に回した手に込めてくれてるのと、同じ気持ちを返したいから。
ねぇ、奏人? 私、あなたを好きになって変われたのよ?
自分のこと、全然好きじゃなかった。
でも、今は違う。
あなたが『好き』って言ってくれるから、少しずつ好きになれた。
この色の薄い髪も瞳も、いつもとても褒めてくれるから。嫌いだった自分のことを、だんだん好きになっていけた。
「奏人……好き」
「涼香、俺もだよ。君が好きだ。とても」
あなたが、好き。
あなたのことが、とても好き。
あなたをこんなにも好きになれた『私』を、今の私はとても好き。
こんな風に思えるほどに、私を好きになってくれてありがとう。
大好きよ。
だから、この温もりは手放さない。絶対に離さない。奏人だけは、誰にも譲らないの。
「奏人。大好きっ」
誰にも。
絶対に、――絶対にっ。
Episode 3 the end.
Continued on the next story.
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