47 / 48
キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【4−12】
しおりを挟む薄いオレンジ色から、鮮やかな照柿《てりがき》色。そして茜色へと、刻々と変化していく夕暮れの光の中。その色彩を反射する眼鏡の奥の黒瞳が甘くせつない揺らめきを見せ、とろりと私を絡めとってくる。
私が強く思っていたのと同じ言葉を伝えてくれた声が、耳元で鼓膜をじわりと震わせた。
「せっかく、また会えるようになったのに。寂しいよ、すごく。早く帰ってきてほしいって思ってる」
「奏人……」
「だから、涼香のほうから来てくれる?」
両手が広げられ、私を捕らえていた目線がさらに強くなった。
抗えない。だって、私も近づきたい。
捕まえたいの。このひとを。この手で。
「奏人ぉ」
「ん、可愛いね」
私が逞しい胸に飛び込んだのと同時に、奏人が眼鏡を外した。
すぐに熱い唇が重なって、熱と吐息が混じり合う。至近距離で見つめ合う瞳がとろりと濡れて、その煌めく黒の中に私の瞳の色が取り込まれていく。
嬉しい。
熱と吐息だけじゃなく、私と奏人が持つ互いの色も混じり合ってるのが、目で確認できる。たったこれだけのことが、とても嬉しい。
「涼香。まだ、いい?」
「ん」
アップにした髪に沿うように奏人の指に支えられた頭は、熱っぽく角度を変えながら交わされ続ける口づけに、だんだんと蕩けていく。
「まだ、キスしてたい。いい?」
「ぁ……奏人、もっとっ」
私だけに与えられる奏人の甘くねだる声は、このひと時をもっと引き延ばしてほしいと願ってる私を優越感でおかしくさせる。
そして、『もっと』と、はしたなく希《こいねが》う言葉すら簡単に告げさせてしまうの。
奏人の首に回した手にも、『もっと、もっと』と、恥ずかしいくらいに力を込めてしまう。
奏人が私の腰に回した手に込めてくれてるのと、同じ気持ちを返したいから。
ねぇ、奏人? 私、あなたを好きになって変われたのよ?
自分のこと、全然好きじゃなかった。
でも、今は違う。
あなたが『好き』って言ってくれるから、少しずつ好きになれた。
この色の薄い髪も瞳も、いつもとても褒めてくれるから。嫌いだった自分のことを、だんだん好きになっていけた。
「奏人……好き」
「涼香、俺もだよ。君が好きだ。とても」
あなたが、好き。
あなたのことが、とても好き。
あなたをこんなにも好きになれた『私』を、今の私はとても好き。
こんな風に思えるほどに、私を好きになってくれてありがとう。
大好きよ。
だから、この温もりは手放さない。絶対に離さない。奏人だけは、誰にも譲らないの。
「奏人。大好きっ」
誰にも。
絶対に、――絶対にっ。
Episode 3 the end.
Continued on the next story.
10
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
花霞にたゆたう君に
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【自己評価がとことん低い無表情眼鏡男子の初恋物語】
◆春まだき朝、ひとめ惚れした少女、白藤涼香を一途に想い続ける土岐奏人。もどかしくも熱い恋心の軌跡をお届けします。◆
風に舞う一片の花びら。魅せられて、追い求めて、焦げるほどに渇望する。
願うは、ただひとつ。君をこの手に閉じこめたい。
表紙絵:香咲まりさん
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission
【続編公開しました!『キミとふたり、ときはの恋。』高校生編です】
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
キミの生まれ変わり
りょう改
青春
「私たちは2回生まれる」
人間は思春期を迎え、その後に生まれ変わりを経験するようになった遠い未来。生まれ変わりを経験した少年少女は全くの別人として生きていくようになる。
余命三ヶ月、君に一生分の恋をした
望月くらげ
青春
感情を失う病気、心失病にかかった蒼志は残り三ヶ月とも言われる余命をただ過ぎ去るままに生きていた。
定期検診で病院に行った際、祖母の見舞いに来ていたのだというクラスメイトの杏珠に出会う。
杏珠の祖母もまた病気で余命三ヶ月と診断されていた。
「どちらが先に死ぬかな」
そう口にした蒼志に杏珠は「生きたいと思っている祖母と諦めているあなたを同列に語らないでと怒ると蒼志に言った。
「三ヶ月かけて生きたいと思わせてあげる」と。
けれど、杏珠には蒼志の知らない秘密があって――。
恋の泉の温もりよ
楠富 つかさ
青春
主人公、花菱心は地元を離れてとある温泉街の高校を受験することに。受験の下見がてら温泉旅館に泊まった心はそこで同い年であり同じ高校を受験するという鶴城ゆもりに出会う。
新たな出会いに恵まれた時、熱く湧き上がるのは温泉だけではなくて――
温泉街ガールズラブストーリー、開幕です!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる