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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【4−4】
しおりを挟む「涼香? もしかして怒ってる?」
至近距離で首を傾げてる秀麗な顔。眼鏡を外した奏人からの問いかけと視線から、ぷいと顔を背けた。
「別に、怒ってない」
これは、本当だ。ほんとに怒ってない。けど――。
「怒ってないけど……は、恥ずかし……かった、よ?」
ついさっき背けた目線を戻して、奏人を見た。
波にぷかぷかと揺られてるチョコドーナツ型の特大浮き輪の真ん中で、精いっぱい恨めしげに見つめてみせる。
だって、だって! いくらプライベートビーチだからって、やっぱりお外であんな風にキスするなんて、恥ずかしすぎる!
「このビーチはセキュリティーは完璧だから、何の心配も要らないのに」
なのに、返ってきたのは、私の恨めしげな視線なんか何の効果もなかったとわかる涼しげな表情。
私が入ったチョコドーナツ浮き輪を支えてくれてる逞しい腕の持ち主は、「一色のセキュリティーは万全だよ。何せ、あそこの家業だからね」と続けた。
「セキュリティー? 一色くんのお家、やっぱり学園経営の他にも事業をなさってたの?」
思いがけない奏人の言葉に、もう少しだけ恨めしげにしようと思ってた表情が、一変した。
「あぁ、セキュリティー会社も経営してるんだ。学校の警備員も一色の社員なんだよ」
「へぇ! そうだったの?」
わぁ、私が毎朝ご挨拶してる警備員さん。あの人も一色くんのお家の社員さんだったのねぇ。びっくりだわ。
「機嫌、直った?」
「だからっ、怒ってないもん。恥ずかしかっただけ……」
もう! 奏人は何にもわかってない。
「我慢しきれなかった俺が悪いけど、涼香もけっこう熱く応えてくれてたよ?」
「奏人のばかっ!」
もう、知らない! 奏人は、ほんとに何もわかってない。
私が本当に恥ずかしいのは、奏人にあんな風に熱く迫られたら、場所なんか関係なく応えてしまいたくなっちゃう私自身のこと、なのに!
もうもう! 奏人ってば、ほんとに、なぁんにもわかってないんだから。
でも、こんな私の本音は、絶対に教えないけどねっ。
「午前中、楽しかった?」
「え?」
ついさっき、『馬鹿』って暴言を吐いた私のことも、これまた全然気にしてない様子の奏人からの唐突な質問。
打ち寄せる波の飛沫《しぶき》で髪を少し濡らしたその人は、さっき私を赤面させた時とは違う、真剣な表情を見せてる。
「午前中って……うん、楽しかったよ?」
山吹さんたちと過ごしてた時間のことだよね?
そう思って、即答した。
「そう。良かった」
私の即答に、眼鏡越しじゃない奏人の目元が、照りつける陽射しににじむように緩む。
「楽しく過ごせたなら良かった。来て早々、嫌な思いをしたろ? だから、少し気になってたんだ」
あ、もしかして金髪のA&Bさんたちのこと?
「大丈夫。嫌な思いとか、全然してないよ。ずっと楽しかった。Sol naranjaでのティータイムもバーベキューも、それからビーチバレーの応援も全部!」
奏人を見てた女子の皆さんたちに少しモヤッてたことは内緒にして、笑顔で答えた。楽しかった度合いのほうが圧倒的に多いから。
「それを聞いて安心したよ。でも、少し複雑でもあるかな。楽しい思い出を作ってほしくて山吹たちと会わせたけど。正直に言えば、皆と笑ってる君を見て『俺の涼香なのに』って、心の狭いことを考えてたからね。ふふっ」
少し自嘲気味に笑った奏人の表情に、はっと胸を突かれた。
奏人も、私と同じことを感じてくれてたの……?
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