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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【3−7】
しおりを挟むインハイの予選が終わった後、山吹さんに告白してきた後輩くんがいて。山吹さんいわく、『チカ並みに可愛い、子リスみたいな子』にものすっごく熱ーく迫られてるところに息を切らせて駆けつけた司波くんが、その後輩くんに『ある言葉』を言い放ってその場から山吹さんを連れ去ったらしい。
そのセリフをそのまま言うのはすごく恥ずかしいからって、内容までは教えてもらえなかったんだけど。
実はふたりは十年前にこの神奈川の海で出会ってて、司波くんはその時に交わした約束を果たすために山吹さんと同じ学校に入学したという話だった。
小六まで奏人たちと祥徳学園に通ってた司波くんが中学受験してまで耀光学院に行ったのは、単純にバスケ部が強いところを求めてだとばかり思ってたんだけど、実は山吹さんのためだったとか!
何、それ! すごくいいっ!
おつき合いを始めるきっかけになったそのセリフも本当は聞かせてもらいたかったけど、私だって、あのスキー場で奏人に言われた言葉を誰かに話すことはしてないもん。
チカちゃんにも美也ちゃんにも話してない。恥ずかしいのもあるけど、あの告白は、奏人が私にだけ伝えてくれたものだから、大事にしたいの。
普段、寡黙な人が迸るようにぶつけてくれた想いの丈、だったから。
そういえば、あの時まで奏人があんなに情熱的だなんて知らなかっ……。
「おい、山吹。俺が着せたパーカー脱いでんじゃねーよ。この馬鹿」
「馬鹿とは、なんだ。そういうお前こそが馬鹿だろう」
あ、あれ?
「は? 俺が馬鹿なわけねぇだろ。つか、マジでパーカー着ろよ。ったく、そんな目立つビキニ着やがって」
「あ? 目立つならいいじゃないか。店の宣伝を兼ねてるんだから」
「はあぁ? いいわけねぇだろが!」
「あ、あのぅ……ちょっといい? 私、山吹さんのビキニ姿、とっても綺麗だと思うんだけど。司波くんは、どうしてそんなに怒ってるの?」
突然始まった言い争いがなかなか終わりそうになかったから、思い切って割り込んでみた。言いたいこともあったし。
山吹さんが身につけてるビキニ。目にも鮮やかなオレンジ色の大人っぽいデザインのそれは、すらりとしたモデル体型の彼女にとても良く似合ってる。どうして司波くんは、それを隠せなんて言うのかしら。
「私のおばあちゃんが言ってたわよ。『ビーチの正装は、ビキニ』だって。それにお店の宣伝も兼ねてるなら、司波くんはそれを邪魔するようなこと言っちゃ駄目なんじゃない? だって、山吹さんは『オレンジの太陽』そのものでしょ?」
「涼香ちゃん、君……くそっ、土岐め。アイツがこんな凶器を放置してるから……」
「白藤さん、よく言ってくれた。ありがとう」
私を見ながら何とも言えないお顔を見せた司波くんが気になったけど、山吹さんがとても嬉しそうに笑ってくれたから、カレカノの会話に図々しく割り込んだこと許してもらえてるのかな?
頭上のビーチパラソル。山吹さんが着用してるビキニと同じ色のパラソル越しに見える看板を見上げて、「御礼なんて、とんでもない。それにしても素敵な店名よねぇ」と、私も同じ笑みを返した。
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