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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【3−5】
しおりを挟む「すんませんっした! 俺ら、めっちゃ反省したんで許してください!」
「すんませんっした! 俺ら、めっちゃ反省したんで許してください!」
まぁ、すごい。同時に同じセリフを言って、同じ角度で頭を下げられるなんて。AさんとBさん、ふたりとも息ぴったりなのね。
でも、こんなに身体を折り曲げて謝る必要はどこにもないと思われ……。
「おい、AとB。俺は、お前らの顔は二度と忘れない。二度とだ。だからこれから先、一生、俺の女の前にそのツラを見せるな。いいか、生涯に渡って、だぞ。例え整形しても俺は気づくからな。わかったら、三秒以内に走り去れ。3、2……」
「うわぁっ! マジ、すんませんっしたーっ!」
「うわぁっ! マジ、すんませんっしたーっ!」
あ、夏祭りの時より逃げ足速い。
というか、奏人。初めて聞いたわ、今の声。普段は甘めのテノールなのに、お腹にくるようなものすごい威圧感の美声だった。
やだ。かっこよすぎて、ゾクゾクしちゃう。どうしよう。どうし……。
「おい、土岐。お前の『サラリと重大発言』に、涼香ちゃんが固まってるぞ」
「え?」
司波くん、何? 『サラリと重大発言』って……奏人、何か重大なこと言ってたかしら。
「奏人? 何のこと? ねぇ、今、何か重大なこと言ったの? 私、司波くんの言葉の意味が、ちょっとわかんない」
「えっ! 涼香ちゃん、マジっ?」
え……。
「あははっ。白藤さん、わかってなかったんだ」
え? え?
司波くんのびっくり顔と、背後から聞こえてきた高階くんの笑い声。それから、斜め前で苦笑してる一色くん。誰に反応していいのかわかんないから、もう一度、奏人を見上げる。
「あの……奏人?」
そうしたら、目を少しだけ細めた奏人とパチッと目線が合った。
口元には、綺麗な笑み。瞳に浮かんでる柔らかな光は、まるで包み込むように私を捕らえてくる。
「ん? 気にしなくていいよ。たいしたことじゃないから」
「え? 『サラリと重大発言』なのに、たいしたことないの?」
えー? 『気にしなくていい』って頭撫でてくれてるけど、皆の反応見てたら気にしちゃうんですけど?
「そう。俺にとっては、当たり前の未来だからね。――それより司波、見すぎだぞ。その目線、何とかしろ。潰すぞ」
ん? あれ? お話、変わった。
というか司波くんに呼びかけながら、今度は腰に手が添えられたんですけど。あの、この手、なんだかすごーく熱い気がするんですけど!
「おぉ、怖ぇ。『潰すぞ』って、俺の目のことかよ。すげー綺麗だなって感心してただけなのに、相変わらず心が狭いな、お前。つーか、減るもんじゃないし見せびらかしてていいんじゃねぇの? ちゃんと痕つけてんじゃん」
「その他大勢にはそれでいいが、お前に見せると減る気がする。お前は、自分の女だけ見とけよ」
え?
「ははっ、酷ぇ言われようだな。けど、気持ちわかるわ。俺も、自分の女にはさっきパーカー着せたし」
え? え?
「あのっ、『自分の女』って? 司波くん、彼女いるのっ? いつの間に?」
えぇっ! 先月、試合会場で会った時は、群がるファンの皆さん全員に応援の御礼のハグとかしちゃって、流血騒ぎ(鼻血だけど)起こしてたのに? あの時、もう彼女いたってこと?
「ふふーん。いつの間に、でしょう。それは、ヒ、ミ、ツっ」
「うっ、うわぁ……!」
わわわっ。司波くんのウインク、ひさしぶりに至近距離で見たわ。イケメンさんだけに、ものすごい破壊力っ。
「痛っ」
「気持ち悪い顔を涼香に見せるな」
あ、司波くんのあごを掴む奏人もひさしぶりっ。
「それに、何をもったいぶってる。『俺の女は、山吹だ』って言うだけだろうが」
え? やまぶ、き?
「あ、そんなサックリ言っちゃう? あははっ」
「ええぇっ! 『私の山吹さん』が、司波くんの彼女おぉぉっ?」
山吹さんが……あの山吹さんが……ほんとなの? 皆で私をからかってるんじゃないよね?
「涼香……」
「ちょ、涼香ちゃん。『私の山吹』って……」
「ふはっ! 白藤さんが土岐の前で浮気宣言して、司波に略奪愛宣言とか、めちゃウケる!」
え? なんのこと?
無表情の奏人と戸惑い顔の司波くん。それから激しく吹いてウケてる高階くん。その順にお顔を見て、首を傾げた。
「白藤さん。今『私の山吹さん』って叫んでたよ。だから見なよ。この司波の間抜けな顔。ぷっ! くくくっ」
「あ……あら、いけない。私ったら動揺のあまり、大事なとこをすっ飛ばしてたわ。『私の憧れの山吹さん』よっ」
司波くんが通う耀光学院のバスケ部マネージャー、山吹真琴さん。
スラッと背が高く、声も低めで話し方もイケメン。ひとつにまとめたポニーテールを揺らしながら颯爽と歩く姿は、さながら宝塚の男役のよう。ほんとにカッコいいんだもの。私の憧れ!
だから、この展開はめちゃめちゃショックなのよぅ。
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