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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【3−2】
しおりを挟む「……あれぇ? いない。奏人、どこ?」
海の家の更衣室前。ついさっき、『ここで待ってる』って言ってくれた奏人が、どこにもいない。
「ドリンクでも買いに行ったのかしら。えーと……ええぇーっ! ここにもいないー」
海の家のドリンクコーナーに並んでる人たちの中にも、奏人の姿は見つけられない。
「どこ行っちゃっ……あっ、いた! 奏っ……えっ?」
やっと見つけた奏人は、少し離れた位置にいた。そこは、砂浜の真ん中。
「やだ、どこ行くの?」
大好きな人が、私に背中を向けて歩いてる。
「……その人たち、誰?」
ビキニのお姉さん三人に囲まれて、どんどん離れていっちゃう。『一日中、離れない』って、私と約束したのに!
「やだっ。かなっ……きゃっ!」
「いってぇな! なんだよ、急に!」
「あ……ご、ごめんなさい」
奏人を追いかけようとして、横から歩いてきた人にぶつかっちゃった。
自分の不注意だからちゃんと謝らなくちゃなんだけど、いきなり怒鳴りつけられて、ちょっと怖い。
「あーっ、お前! お前、あの時の女じゃねーか!」
「え?」
この人、私のこと知ってるの?
え? 全然知らない。『あの時』って、いつのことを言ってるの? 私、金髪のお知り合いなんて、いないけど。
「おい、どうした?」
あ、お友だちかな? 同じような金髪の人が、もうひとり声をかけてきた。
「あっ、おい。コイツ、あん時の女だよ。ほら、夏祭りの『ひとりホラーごっこ』の女!」
……ん?
「マジか! そういや、そうだ。コイツ、あん時のヤツじゃん」
「だろっ?」
えーと……えーと……? 金髪さん二人が私を見て盛り上がってる中、覚えのあるワードが揃ったことで、私も記憶を辿る。『夏祭り』に、『ひとりホラーごっこ』?
「はっ! じゃあ、やべぇじゃん! あん時のガラの悪ぃ男もここにいるんじゃねっ?」
「うぉっ、あの目つきの悪ぃヤツかっ。それこそ、マジかぁ!」
あっ、思い出した! 顔を覚えてないから自信ないけど、たぶん合ってるはず。
「ねぇ、あなたたち……」
「涼香? コイツら、何?」
「奏人っ」
戻ってきてくれた! 良かっ……。
「離れてごめんね。ところで、何かトラブル起きてた? コイツら、何? まさか、触られてないよね?」
「は?」
「何だよ、お前っ」
きゃーっ! きゃーっ! きゃーっ!
戻ってきてくれたのは嬉しいけど! あと、『コイツら、何?』の声がなんか凄みがあってドキドキするけど! それで、相手は物じゃなくて人なんだから、尋ねるなら『コイツら、誰?』にしないとって、言ってあげたいけど! ひとまず、こっち!
「かっ、奏人。あの、少しだけ離れて?」
横からぎゅっと抱きしめられてるこの体勢を何とかしてほし……。
「無理。というか、俺の質問に先に答えてくれないと駄目だよ?」
無理って!
「おい。コイツ、あん時のヤツと違う男じゃん」
「だよな。どっちにしても、すんげぇ目つき悪ぃけど」
あ、でも、この人たちのことは説明しとかなくちゃ、かな?
「えと、前に言ったでしょ? 夏祭りで煌先輩に助けてもらった時の、金髪のAさんとBさんよ」
Aさん、Bさんだなんて失礼な命名だけど、名前を知らないんだから仕方ないわよね?
「ほぅ……コイツらか」
あれ? 離れるのは『無理』って言ってたはずの奏人が、さっきよりも低い声で呟くなり、すっと私から離れていった。
「涼香。本人を見たら、顔、思い出した? どっちがA?」
で、私に背中を向けて、金髪さんたちの前に立って質問してきてる。
「あ、えーと……顔なんて全然覚えてないけど、声の感じだと右の人かな?」
「お前か」
「いってぇーっ!」
えっ、奏人っ? 何してるの?
「この手で突き飛ばしてくれたんだろ? 俺の女を。たっぷり礼をさせてもらうぞ」
「痛っ! いたたたたっ!」
えぇっ! あのっ……。
「おまっ、何してんだよっ……ぎゃっ!」
「うるさい。邪魔するなら、お前にも同じ礼を返すぞ。黙ってろ。あぁ、そうだ。俺の女につきまとって怯えさせた詫びなら、先に聞いてやるが?」
えと、えとっ! ど、どうしたらいいのっ?
今、目の前で繰り広げられてる光景——。
Aさんの手首を掴んで捻り上げ始めた奏人に食ってかかったBさんだったけど、Aさんの手首を持ったまま足を振り上げた奏人に顎を蹴られる寸前でコクコクと頷いてるっていう図!
なんだけどっ?
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