キミとふたり、ときはの恋。【Summer Breeze】

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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】

Summer Breeze【3−1】

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「わぁ、綺麗! ねぇ、すごく綺麗な水色ねっ」
 駅のホームに降り立ち、そこから見える海岸の美しさに、繋いだままの奏人の手を揺らしながらその顔を見上げた。
「涼香は、この海岸に来るの初めてだったよね。ここは、神奈川でも特に海が綺麗なところで有名なんだよ」
「そうなんだー。千葉の海も綺麗だけど、この透き通った水色の海、素敵ね。あ、水色と言えば、昔は水色のことを水縹みはなだ色って言ってたのが、だんだん『水色』に変わっていったんですって。和歌の本に書いてあったの」
「へぇ、知らなかった。水縹色か。じゃあ、今日の涼香のワンピースの色も水縹色になるね」
「あ、言われてみればそうね。実は海デートだから、これにしたっていう安直なセレクトなの。ちょっと恥ずかしい」
 隣を歩く奏人がその視線を私のワンピースに伸ばし、すっと下まで見下ろした。
 言われた通り、今、着てるのは水色のワンピース。胸元の高い位置に白いレースの切り替えがついただけの、ストンとしたデザインのもの。海デートだから海の色に合わせたのと、着脱のしやすさで選んだデザインだ。
 だって、お着替えの時間は短くしないと奏人を待たせちゃうもん。

 だけど、ちょっとオシャレ度には欠けるのかなぁ。せっかくの海デートなん……。
「それ、可愛いよ。涼香は手足が細いから、こういうシンプルなラインのものも似合うね。そうしてると、童話に出てくる小さなお姫様そのもので、攫いたくなる。ということで、抱き上げていい?」
「えっ? だだだっ、駄目っ!」
 ここ! 駅の改札!
 どこまで本気なのかわからないけど、繋いでた手が離れて腰に回ってきたから、慌てて小走りで先に自動改札を出た。
 そこで、くるんと振り返れば、私に続いてゆったりと改札を出てくる奏人と目が合う。
 そして、また手が差し出された。
「ははっ。すごいダッシュだったね。けど、逃げるなんて酷いな」
 うぅ……だって、だって。
「昨日の約束、覚えてるよね?」
 覚えてる。でも! だって! やっぱり、恥ずかしいもん。
「ほら。もう、離れないで?」
 駄目だ……私、やっぱり駄目。
「ん? 涼香?」
 差し出された手。捕らえるように絡んでくる視線。私を呼ぶ優しい声。私に向けて差し出される奏人の全て。
「う……うん」
 これ、全部、離したくないの。

「ん、素直で可愛いね」
 差し出された手にちょんと乗せた指先は、すぐにしっかりと絡め取られ、五本の指全部がきゅっと組み合わされる。元通りに。
「じゃ、行くよ。お姫様?」
 甘い囁きに、もう反論も反抗もしない。黙って小さく頷いた。
 どんな恥ずかしさよりも、『大好き』が勝った瞬間だった。


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