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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【2−9】
しおりを挟む彼氏になら言えるんじゃない? 彼氏には相談できるでしょ、なんて思う人もいるかもしれない。
でも、私には無理。
奏人に心を開いてないわけじゃない。だけど――。
大好きな相手だからこそ、私は言えない。簡単には、言えないのよ。
「俺が、一緒でいいの?」
奏人にお願いするために下げていた頭に手が乗り、同時に声が降ってきた。
「うん……うん! というか、奏人と一緒がいいのっ」
優しい声色に勢いよく顔を上げ、同じく優しい色を見せてくれている瞳を見返して、ちゃんと伝えた。
わがままを押しつけてることは自覚してる。
でも、奏人と一緒がいい。奏人だから、一緒に行きたい、と。
「あのっ、すごくわがままなお願いしてるってわかってるの。でも、〝奏人だから〟。おばあ様に……私の恩人さんに一緒に会ってもらいたくて……その……」
「うん、いいよ」
「えっ」
いいの?
〝奏人だから〟、一緒に行ってもらいたい。どう言えばそれが伝わるのか、わからないままにお願いを続けていた。
なのに、あっさりと承諾してもらえて、馬鹿みたいに口を開けてしまった。
「いいよ。一緒に行こう。日にちは決まってるの?」
「あ、まだ……萌々ちゃんと相談してから」
「ん、わかった。じゃ、花宮と相談して決まったら知らせて。都合つけるから」
「いい、の?」
「ふっ。『俺と一緒がいい』んでしょ? なら、行くよ。どこでもね」
頭に乗せられていた奏人の手はいつの間にか横に滑り、片方で緩く編んでいる髪を掬っていた。
三つ編みを手のひらが包み込み、するりと下へ撫でおろしていく。
そして、今度は後頭部が撫でられた。向けられてる笑みが本当に優しくて、透き通ってて――。
「ありが、と」
わがままを聞いてくれた御礼を言うだけなのに、胸がきゅうっと軋んだ。
ボストンの遠征から帰国したばかりで、学校の課題も残ってるだろうし、部活もバイトだってあるのに。すごく忙しいのに、私につき合ってくれる。
こんな優しい奏人に、私は何を返せるんだろう。
「奏人。あの、ほんとにありがとう。私、なんて御礼を言ったらいいか……」
「ん? どうして御礼? 君と一緒に出かける、俺得な約束をしただけなのに?」
「え……」
感謝の気持ちをどう返せばいいかと悩みながら見上げた奏人は、浮かべていた穏やかな笑みのまま、首を傾げて私を覗き込んできた。
そして、頭を撫でてくれていた手が肩に乗る。
「ねぇ、涼香。さっきから気になってたんだけど、もしかして俺にわがまま言ってるとか思ってる?」
「あ、うん。だって……んっ」
「ストップ。悪いけど、先に俺の話を聞いて?」
話の途中だったけど、ふにっと唇に乗った人差し指に遮られた。
奏人が自分の話を先にと言うなんて珍しい。
だから、こくんと一度頷いた。
「今の涼香の話の中で、わがままだと感じる点なんて、ひとつもないよ。むしろ、涼香は普段から何も言わなすぎだよね。だから、わがままはもっと言っていいよ。俺を振り回すくらいね」
「えっ、そんなっ」
振り回すとか、無理!
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