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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【2−2】
しおりを挟む認知機能低下の症状が出てるってことは前にお聞きしてたけど、実際にそれがどういうものなのかがピンときてなかったし、ちゃんとわかってなかった。
だから私、こんなにショックを受けてるんだ。おばあ様の記憶の中に私がいないという現実を、受けとめきれなくて――。
「涼香、顔上げろ」
「はっ、はい」
ショックと混乱で、もう少しで零れ出てしまいそうな涙を懸命に飲み下そうと俯いてた私に、命令口調なのに優しい声が落ちてきた。
肩に手が乗り、ポンポンとなだめるようにしてから「しゃんとしろ」と、俯いていた私の背筋を伸ばすように少しの力が込められる。
見上げれば、鋭い印象の切れ上がった目元が私を見下ろして、真っ直ぐに視線が絡んだ。
そうして、ちゃんと顔を上げた私に「よし」と一度頷いてから、煌先輩はおばあ様のほうを向いた。
「ばあさん。コイツ、『すずちゃん』だよ」
「えっ?」
思わず、声が出た。『すずちゃん』って、煌せんぱ……。
「まぁ、すずちゃん? あなた、すずちゃんなの?」
え?
「まぁまぁ、すずちゃんだったの? 会えて嬉しいわ」
「はい……あ、え? あ、あのっ、どういう?」
すずちゃんか、と聞かれたから返事をしたけど、これ、どういうこと?
突然の展開に、ついていけない。おばあ様に両手を握られてぶんぶんと振られてる状態で、煌先輩を振り仰いだ。
「ばあさんさ。身内の顔もたまに認識してないし、他のいろんな記憶もボコッと抜け落ちてるけど、『すずちゃん』のことは覚えてんだよ」
え……覚えて、くれてる……の?
「私のこと覚えて……」
斜め上から覗き込むようにして告げられた煌先輩の言葉に、それまで見せないようにと我慢していた涙が、ひと筋、零れ落ちていた。
「おばあ様、ありがとうございます」
私の手を握り、嬉しそうに笑ってるおばあ様の前にもう一度しゃがんで、笑みを返した。
私の顔を忘れてしまわれても、あの時のことは覚えていてくださってる。そういうことよね?
「先週、誘った時にちゃんと説明しとけば良かったな。マジで悪ぃ。泣かせちまった」
「こっ、これは私が勝手に……あ、ありがと、ございます」
おばあ様と繋いでる両手を離したくなくて、流れ落ちたままにしていた涙の跡が、煌先輩によって拭われた。
私と同じように隣にしゃがみこみ、目元と頬にハンカチをあててくれたの。
「ひゃっ! こっ、煌先輩っ?」
それだけなら、まだ良かったんだけど。その後、涙が伝わった顎だけが指先でなぞり上げられたから、びっくりして声をあげてしまった。
「アイツの痕、消えてるな」
煌先輩が何かを呟いたけど、私が名前を呼んだのと同時だったし、声も低かったから聞き取れなかった。
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