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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【2−1】
しおりを挟む「……え? どうして?」
声が震える。
今、目の前に見えてる光景が信じられなくて。
――カンッ
手に持っていた園芸用スコップが地面に落ちて、カンカンと金属音を立てて転がっていくけれど、それを拾う余裕すらない。
「どうして、ここにいるの?」
震え声のまま、次の言葉を口内で紡いだ。
千日紅に、マリーゴールド。それから、ペンタスにペチュニア。白、ピンク、赤、青、紫に黄色。植えたばかりの苗が色とりどりに目を楽しませてくれる花壇をぐるりと回り込んで、その人の前まで駆け寄っていく。
「あっ、あのっ! どうして……煌先輩、なんでここにいるの? おばあ様と!」
まさか、園芸ボランティアで来た病院で、おばあ様と煌先輩にお会いするなんて思ってもみなかった。
「は? なんでって聞かれても、ばあさんがここに入院してるからだけど? つか、俺もここで会ってびっくりだわ。お前からは、その後、何の連絡もないままだったし」
「あ、ごめんなさい。まだ萌々ちゃんに何のお返事もできてなくて……」
目線が、徐々に下を向いていく。
そうだ。私、奏人におばあ様のお見舞いの相談をしたくてメッセージ送ったけど、いつ頃お返事できるか、萌々ちゃんに連絡をしてないままだった。
はっ! というか、もう遅くない?
奏人に相談する前に、もう会っちゃってるわよ?
おばあ様に会っちゃってるわよねっ?
突然のことで頭はめちゃめちゃ混乱してるけれど、もう会ってしまったものは仕方ない。割り切るしかない、よね?
順序が逆になってしまったのは申し訳ないけど、奏人には後できちんとお話ししてわかってもらうしかない。それよりも――。
「あっ、あの、こんにちは。おひさしぶりですっ」
おばあ様に会えたことを喜ぼう。
「はい、こんにちは。暑いわねぇ」
煌先輩とお庭の散歩中なんだろう、帽子をかぶって車椅子に座っているその人と目線を合わせるために、横にしゃがんで御挨拶すれば、穏やかな笑顔が返ってきた。
記憶にあるのと変わらない、優しい笑みだ。
「お加減は良くなられたんですか?」
その笑みに、少しのせつなさを含んだ、あたたかな心地を感じながら、お身体の具合についてお尋ねした。お庭に出ておられるくらいだから、お熱は下がったのよね?
「お加減? 私はいつも元気よ。――ねぇ、煌ちゃん? 萌々ちゃんは、おかしなこと言うわねぇ」
「え……」
聞き間違い? おばあ様、今、私のこと、『萌々ちゃん』って呼ばれたような……。
「ばあさん、コイツは萌々じゃねぇよ」
おばあ様の車椅子の肘置きに手をかけたまま固まっていた私の腕に煌先輩の手がかかり、ぐっと引き上げられた。
「認知症の症状が出てるって、前に言ったろう? けど、びっくりしたよな? 説明不足で悪い」
そのまま耳元で小声で謝られたけど、小さく頷くのが精いっぱいだった。喉の奥にせり上がってきたものを我慢してたから。
おばあ様、私のこと、もう覚えておられないんだ。認知症って、こういうこと……。
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