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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【1−9】
しおりを挟む「宮さまぁーっ! もう終われそうっすかぁ? 白藤ちゃんも、おっ疲れさぁん!」
無邪気な笑顔の武田くんの後ろできつい視線を向けてきてる都築さんと、ひさしぶりに、まともに目が合った。
七夕の、あの日。部活中に怪我をして奏人が病院まで付き添ったというその人とは、その後化学の授業で一度だけ顔を合わせたけれど、その時は目線を合わせることはなかったから。
同じ実験班のメンバーなのに。
うん。その理由、ちゃんとわかってる。都築さんはともかく、私のほうが目線を合わせないようにしてたから、だ。
「あ、あのっ、煌先輩? そろそろ中に戻ってもいいですか? ちょっと、陽射しがきつくて暑い、のでっ」
こんな風に強張った表情のまま、私のほうから顔を背けてしまっていたから。
都築さんが怪我をしたのも、奏人がその怪我を気遣うのも、彼女のせいじゃない。
わかってる。私が、ぐるぐると渦巻くモヤモヤを消化しきれないだけなの。
不自然だってわかってるけど、どうしようもない。
「涼香? お前、どうした?」
「あ、ごめんなさい。お話の途中だったのに。あの、ベランダは陽射しが強すぎたので、その……」
そそくさと、ベランダから視聴覚室に戻った私に、眉をひそめた煌先輩からその理由を尋ねられたけど、上手い言い訳が思いつかない。
おまけに、武田くんのこと、ガン無視した形になっちゃったわ。
うう、ごめんなさい。武田くん……。
「や、そうじゃねぇだろ?」
「え?」
ちゃんと説明しきれないまま、気まずさから煌先輩の目線から逃げようとした私の肩に、手が乗せられた。
くっと、ほんの少し力が込められて引き戻される。
「何か、あったんじゃねぇの? だってお前、また泣きそうな顔してるぞ」
振り仰げば、眉をひそめた見覚えのある表情が、私に向けられていた。
鋭い目元から向けられる、真っ直ぐな視線。それは、気遣うような心配そうな揺らめきを見せ、私が抱えてるものを見抜こうとしてるかのような、曇りのないものだった。
「な、何にもないです。ほんとに、暑かっただけでっ」
だから、ごまかすしかない。
〝あの時〟とは、違うんだから。
「けどお前、アイツらと会ってから、そんな顔を……」
「あの、大丈夫です。部屋の中に戻ったから、もう大丈夫っ」
首を振って、『もうそれ以上、言わないで』と、視線に込めた。
中二のあの時とは、違う。
煌先輩に悩みを打ち明けて、そのことで救われた、あの時とは違うの。
これは、私自身が向き合うことだから。
今は逃げてるけど、これじゃ駄目だってことは、ちゃんとわかってることだから。
「……土岐、か?」
ぼそりと落ちた声とともに、不意に煌先輩の手が動いた。
――ぴくんっ
びっくりして、身体が固まった。少し目を細めたその人の指先が、そっと首筋に触れてきたから。
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