キミとふたり、ときはの恋。【Summer Breeze】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
上 下
10 / 48
キミとふたり、ときはの恋。【第三話】

Summer Breeze【1−9】

しおりを挟む



「宮さまぁーっ! もう終われそうっすかぁ? 白藤ちゃんも、おっ疲れさぁん!」
 無邪気な笑顔の武田くんの後ろできつい視線を向けてきてる都築さんと、ひさしぶりに、まともに目が合った。
 七夕の、あの日。部活中に怪我をして奏人が病院まで付き添ったというその人とは、その後化学の授業で一度だけ顔を合わせたけれど、その時は目線を合わせることはなかったから。
 同じ実験班のメンバーなのに。
 うん。その理由、ちゃんとわかってる。都築さんはともかく、私のほうが目線を合わせないようにしてたから、だ。
「あ、あのっ、煌先輩? そろそろ中に戻ってもいいですか? ちょっと、陽射しがきつくて暑い、のでっ」
 こんな風に強張った表情のまま、私のほうから顔を背けてしまっていたから。
 都築さんが怪我をしたのも、奏人がその怪我を気遣うのも、彼女のせいじゃない。
 わかってる。私が、ぐるぐると渦巻くモヤモヤを消化しきれないだけなの。
 不自然だってわかってるけど、どうしようもない。

「涼香? お前、どうした?」
「あ、ごめんなさい。お話の途中だったのに。あの、ベランダは陽射しが強すぎたので、その……」
 そそくさと、ベランダから視聴覚室に戻った私に、眉をひそめた煌先輩からその理由を尋ねられたけど、上手い言い訳が思いつかない。
 おまけに、武田くんのこと、ガン無視した形になっちゃったわ。
 うう、ごめんなさい。武田くん……。
「や、そうじゃねぇだろ?」
「え?」
 ちゃんと説明しきれないまま、気まずさから煌先輩の目線から逃げようとした私の肩に、手が乗せられた。
 くっと、ほんの少し力が込められて引き戻される。

「何か、あったんじゃねぇの? だってお前、また泣きそうな顔してるぞ」
 振り仰げば、眉をひそめた見覚えのある表情が、私に向けられていた。
 鋭い目元から向けられる、真っ直ぐな視線。それは、気遣うような心配そうな揺らめきを見せ、私が抱えてるものを見抜こうとしてるかのような、曇りのないものだった。
「な、何にもないです。ほんとに、暑かっただけでっ」
 だから、ごまかすしかない。
 〝あの時〟とは、違うんだから。
「けどお前、アイツらと会ってから、そんな顔を……」
「あの、大丈夫です。部屋の中に戻ったから、もう大丈夫っ」
 首を振って、『もうそれ以上、言わないで』と、視線に込めた。
 中二のあの時とは、違う。
 煌先輩に悩みを打ち明けて、そのことで救われた、あの時とは違うの。
 これは、私自身が向き合うことだから。
 今は逃げてるけど、これじゃ駄目だってことは、ちゃんとわかってることだから。
「……土岐、か?」
 ぼそりと落ちた声とともに、不意に煌先輩の手が動いた。

 ――ぴくんっ
 びっくりして、身体が固まった。少し目を細めたその人の指先が、そっと首筋に触れてきたから。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少女たちの春[第2部]

秋 夕紀
青春
 高校生活を終えた5人の少女たちは、それぞれ大人の階段を上った。朝比奈杏は高校の先輩である柴嵜陽介を京都まで追い、自ら進んで初体験に臨んだ。 白石櫻子は高校の後輩である木之崎碧を翻弄し、男性に関する興味を満たした。鴫野芹菜は中学の先輩である舘岡颯翔に恋し、彼の良いようにもてあそばれた。南真莉愛は高校のサッカー部の榎翔之介と付き合うが、彼の二股が発覚し恋が成就する事はなかった。坂上花純は高校2年の時、塾で知り合った松山雄彦にひどい目に遭い、男性に対する不信感が増した。  勉強だけでなく、友情や恋愛によって様々な事を学んで大人になった。歓喜した事もあれば、悲哀や苦難を乗り越えて青春を歩んできた。高校を卒業して24歳になるまでの彼女たちの、恋愛を中心にした物語を綴る。

青春高校2年A組:それぞれの未来

naomikoryo
青春
――この教室には、40人の「今」がある。 高校2年A組、出席番号1番から40番まで。 野球にすべてを懸ける者、夢を見失いかけている者、誰にも言えない恋を抱える者。 友情、恋愛、家族、将来への不安——それぞれの心の中には、言葉にできない思いが渦巻いている。 幼い頃の忘れられない記憶、誰にも知られたくない秘密、そして今、夢中になっていること。 たった一つの教室の中で、40通りの青春が交差する。 誰もが主役で、誰もが悩み、もがきながら生きている。 この物語は、そんな彼らのリアルな「今」を切り取った、40人の青春記録である。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

真っ白なあのコ

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【私だけの、キラキラ輝く純白の蝶々。ずっとずっと、一緒にいましょうね】 一見、儚げな美少女、花村ましろ。 見た目も性格も良いのに、全然彼氏ができない。というより、告白した男子全てに断られ続けて、玉砕の連続記録更新中。 めげずに、今度こそと気合いを入れてバスケ部の人気者に告白する、ましろだけど? ガールズラブです。苦手な方はUターンお願いします。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?

一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう) 湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」 なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。 そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」 え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか? 戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。 DKの青春BL✨️ 2万弱の短編です。よろしくお願いします。 ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...