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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】

Summer Breeze【1−5】

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「皆さん、お疲れ様です」
 作業の目処がついた頃、視聴覚室に養護教諭の花宮先生が入ってきた。
 今日の仕事の責任者だ。
 いつもながら、涼やかな白衣姿だわ。
 そして、挨拶をした私たちの机に「これは内緒の差し入れなので、こっそり、そしてパパッと食べてくださいね」と紙袋を置いて、いたずらっぽく笑った。
「あっ、ありがとうございます!」
 見れば、ジュースとお菓子が入ってる。慌てて立ち上がって、チカちゃんと御礼を言った。
 購買のドーナツとマドレーヌだぁ。嬉しいなっ。
「安倍さん、花宮くんは役に立ってますか?」
「はい。少し遅刻しましたけど、それを補って余りある有能ぶりで、とても助かってます」 
 煌先輩の隣の席に腰を下ろし、PCを覗き込みながら尋ねた花宮先生に茶目っ気を含んだ口調で安倍先輩が返した。
「それは、良かった。バスケ以外にも特技があったようで、何よりです」
「チッ。うるせぇよ、晶」
 そして、小さく舌打ちをした煌先輩に「ここは学校ですよ、花宮くん。言葉遣いと呼び方に気をつけなさい」と注意しながらニヤリと笑った花宮先生は、いつもよりはざっくばらんな気の置けない雰囲気をまとわせてる。
 ふふっ。仲良し兄弟の素の顔、見ちゃったかも。

 それにしても、しょうこうって、とっても綺麗で響きの良いお名前よねぇ。
「あの、おふたりのお名前は、どなたがおつけになられたんですか?」
 つい、尋ねてしまっていた。興味を抑えられなくて。
「あぁ、名前? 祖母がつけたんですよ。ふたりともね。戦前生まれにしては、凝った名づけでしょう?」
「わ、おばあ様が? そういえば、お勧めの詩集を教えていただいたことがあります。『綺麗な音がたくさん詰まってるのよ』って、おっしゃってました」
「え? 祖母のことを知ってるの?」
「はい。あの、千葉……で、少しだけ……」
 目を見張り、身体ごとこちらを向いて尋ねてきた花宮先生の勢いと真剣な表情に、もしかして聞いてはいけないことを口にしてしまったのかと後悔した。
 おばあ様の話題、駄目だったのかなって。
 けれど、それでも正直に答えた。
 様子を窺うようにチラ見した煌先輩の表情は、憮然としていたけど、怒ってはいなかったから。
「そうか。祖母が言っていたのは、白藤さんのことだったのか」
「……チッ」
 まさに、『驚愕した』っていう表現がぴったりの表情で私をまじまじと見てきた花宮先生の声にかぶって、さっきよりも大きな煌先輩の舌打ちが、その空間に響いた。


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