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キミとふたり、ときはの恋。【第三話】

Summer Breeze【1−4】

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「白藤さん。こっちの検査結果のチェックもお願いできる?」
「はい、わかりました。あ、安倍先輩。中等科棟のチェックが終わってますので、先にお渡ししときます」
「あら、もう? ありがとう。仕事が早いわね」
 チェック済みの資料を笑顔で受け取ってくれた三年の安倍先輩に、「いいえ」と言葉を添えて私も微笑んだ。
 今やっているのは終業式の直前に行われた、全校各所の水質検査の結果のまとめ。検査結果をチェックして、報告書を作成するの。
 それから、その報告書に基づいた、次回の『保健だより』の委員会担当コーナーの原稿作成までが、今日の予定だ。
 責任重大だわ。頑張らなくちゃ。だって――。
「それにしても、手際の良いメンバーが揃ってるのは嬉しいけど、たった三人じゃあ、ちょっと少数精鋭すぎやしない? ま、仕方ないけど」
 私の思考をそのまま代弁して苦笑した安倍先輩に、チカちゃんと顔を見合わせて口元をほころばせた。
 そうそう。三人しかいないから頑張らなくちゃ、なのよ。

 保健委員会の活動は、新年度に割り振られたグループごとに担当が決められる。だから、前期に行われた救急法講習会に参加したグループAのメンバーが、この水質検査の担当。
 いつも保健委員会が行われてる視聴覚室には、今、私とチカちゃん、それに安倍先輩の三人がいるだけ。二年一組から活動補佐としてグループAのメンバーになった煌先輩は、奏人と同じくボストンに行ってるから、もちろん欠席……。
「よう」
「え……」
 開けっ放しだった前のドアから中に入ってきた長身の姿。ここにはいないはずのその人と目が合って、持っていたシャーペンが指から滑り落ちるほど驚いた。
「煌、先輩?」
 どうして、ここに?
 今ちょうどその顔を思い浮かべていた、ボストンに行ってるはずのその人がこちらに向かって近づいてきてる。
 信じられない。でもどう見ても煌先輩ご本人にしか見えない。
「お、おはようございますっ。あの、ボスっ……ボストンは? どうしてっ?」
 慌てて挨拶をしながら質問すれば、私を流し見た先輩の手が、ふわっと頭に乗った。
「ん、それについての説明は後でな」
 そこで一度、軽くポンとしてきた手はすぐに離れて、安倍先輩にその身体が向く。
「悪い、遅れた。どこまで進んでる?」
 短く謝罪した煌先輩は、ブルーのTシャツに白のハーフパンツ姿だ。もしかして部活を抜けてきたの?

「あら、ちゃんと覚えてたんだ。今日のこと。でも助かるわぁ。花宮くんにぴったりの仕事を譲るから、ちゃきちゃき励んでね」
 少しからかい気味に笑いながら、どうぞ、と煌先輩に席を譲った安倍先輩が、チカちゃんの隣に移動した。
 煌先輩は、それに一瞬だけ眉をひそめたけれど何も言わず、それまで安倍先輩が座ってた席にすっと腰を下ろす。その机に置かれてるPCの画面と、画面横の原稿台の資料とを見比べ、また安倍先輩に顔を向けた。
「同じように入力していけばいいのか?」
「そうよー。チカちゃんと白藤さんが検査結果をチェックして渡すから、花宮くんはそれ全部入力していってくれる?」
「わかった
 安倍先輩が言い終える前に、煌先輩の指が動き出していた。
 わ、早いっ。
 長い指が繰り出す、流れるようなタイピングに目を奪われた。
 すごい。奏人も速いけど、煌先輩も綺麗で正確なタッチタイピングだわ。
「白藤さん、手が止まってるわよ。チェックが遅れたら花宮くんがさぼっちゃうから、どんどん渡してあげて」
「あっ、はい。すみません」
 いけない。うっかり見惚れて手を止めちゃってた。
 煌先輩に『まだか』って催促されないように、気を引き締めて自分の作業に戻った。


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