5 / 48
キミとふたり、ときはの恋。【第三話】
Summer Breeze【1−4】
しおりを挟む「白藤さん。こっちの検査結果のチェックもお願いできる?」
「はい、わかりました。あ、安倍先輩。中等科棟のチェックが終わってますので、先にお渡ししときます」
「あら、もう? ありがとう。仕事が早いわね」
チェック済みの資料を笑顔で受け取ってくれた三年の安倍先輩に、「いいえ」と言葉を添えて私も微笑んだ。
今やっているのは終業式の直前に行われた、全校各所の水質検査の結果のまとめ。検査結果をチェックして、報告書を作成するの。
それから、その報告書に基づいた、次回の『保健だより』の委員会担当コーナーの原稿作成までが、今日の予定だ。
責任重大だわ。頑張らなくちゃ。だって――。
「それにしても、手際の良いメンバーが揃ってるのは嬉しいけど、たった三人じゃあ、ちょっと少数精鋭すぎやしない? ま、仕方ないけど」
私の思考をそのまま代弁して苦笑した安倍先輩に、チカちゃんと顔を見合わせて口元をほころばせた。
そうそう。三人しかいないから頑張らなくちゃ、なのよ。
保健委員会の活動は、新年度に割り振られたグループごとに担当が決められる。だから、前期に行われた救急法講習会に参加したグループAのメンバーが、この水質検査の担当。
いつも保健委員会が行われてる視聴覚室には、今、私とチカちゃん、それに安倍先輩の三人がいるだけ。二年一組から活動補佐としてグループAのメンバーになった煌先輩は、奏人と同じくボストンに行ってるから、もちろん欠席……。
「よう」
「え……」
開けっ放しだった前のドアから中に入ってきた長身の姿。ここにはいないはずのその人と目が合って、持っていたシャーペンが指から滑り落ちるほど驚いた。
「煌、先輩?」
どうして、ここに?
今ちょうどその顔を思い浮かべていた、ボストンに行ってるはずのその人がこちらに向かって近づいてきてる。
信じられない。でもどう見ても煌先輩ご本人にしか見えない。
「お、おはようございますっ。あの、ボスっ……ボストンは? どうしてっ?」
慌てて挨拶をしながら質問すれば、私を流し見た先輩の手が、ふわっと頭に乗った。
「ん、それについての説明は後でな」
そこで一度、軽くポンとしてきた手はすぐに離れて、安倍先輩にその身体が向く。
「悪い、遅れた。どこまで進んでる?」
短く謝罪した煌先輩は、ブルーのTシャツに白のハーフパンツ姿だ。もしかして部活を抜けてきたの?
「あら、ちゃんと覚えてたんだ。今日のこと。でも助かるわぁ。花宮くんにぴったりの仕事を譲るから、ちゃきちゃき励んでね」
少しからかい気味に笑いながら、どうぞ、と煌先輩に席を譲った安倍先輩が、チカちゃんの隣に移動した。
煌先輩は、それに一瞬だけ眉をひそめたけれど何も言わず、それまで安倍先輩が座ってた席にすっと腰を下ろす。その机に置かれてるPCの画面と、画面横の原稿台の資料とを見比べ、また安倍先輩に顔を向けた。
「同じように入力していけばいいのか?」
「そうよー。チカちゃんと白藤さんが検査結果をチェックして渡すから、花宮くんはそれ全部入力していってくれる?」
「わかった
安倍先輩が言い終える前に、煌先輩の指が動き出していた。
わ、早いっ。
長い指が繰り出す、流れるようなタイピングに目を奪われた。
すごい。奏人も速いけど、煌先輩も綺麗で正確なタッチタイピングだわ。
「白藤さん、手が止まってるわよ。チェックが遅れたら花宮くんがさぼっちゃうから、どんどん渡してあげて」
「あっ、はい。すみません」
いけない。うっかり見惚れて手を止めちゃってた。
煌先輩に『まだか』って催促されないように、気を引き締めて自分の作業に戻った。
10
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
花待つ、春のうた
冴月希衣@商業BL販売中
青春
「堅物で融通が利かなくて、他人の面倒事まで背負い込む迂闊なアホで、そのくせコミュニケーション能力が絶望的に欠けてる馬鹿女」
「何それ。そこまで言わなくてもいいじゃない。いつもいつも酷いわね」
「だから心配なんだよ」
自己評価の低い不器用女子と、彼女を全否定していた年下男子。
都築鮎佳と宇佐美柊。花待つ春のストーリー。
『どうして、その子なの?』のその後のお話。
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
放課後はネットで待ち合わせ
星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】
高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。
何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。
翌日、萌はルビーと出会う。
女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。
彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。
初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?
氷の蝶は死神の花の夢をみる
河津田 眞紀
青春
刈磨汰一(かるまたいち)は、生まれながらの不運体質だ。
幼い頃から数々の不運に見舞われ、二週間前にも交通事故に遭ったばかり。
久しぶりに高校へ登校するも、野球ボールが顔面に直撃し昏倒。生死の境を彷徨う。
そんな彼の前に「神」を名乗る怪しいチャラ男が現れ、命を助ける条件としてこんな依頼を突きつけてきた。
「その"厄"を引き寄せる体質を使って、神さまのたまごである"彩岐蝶梨"を護ってくれないか?」
彩岐蝶梨(さいきちより)。
それは、汰一が密かに想いを寄せる少女の名だった。
不運で目立たない汰一と、クール美少女で人気者な蝶梨。
まるで接点のない二人だったが、保健室でのやり取りを機に関係を持ち始める。
一緒に花壇の手入れをしたり、漫画を読んだり、勉強をしたり……
放課後の逢瀬を重ねる度に見えてくる、蝶梨の隙だらけな素顔。
その可愛さに悶えながら、汰一は想いをさらに強めるが……彼はまだ知らない。
完璧美少女な蝶梨に、本人も無自覚な"危険すぎる願望"があることを……
蝶梨に迫る、この世ならざる敵との戦い。
そして、次第に暴走し始める彼女の変態性。
その可愛すぎる変態フェイスを独占するため、汰一は神の力を駆使し、今日も闇を狩る。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
余命三ヶ月、君に一生分の恋をした
望月くらげ
青春
感情を失う病気、心失病にかかった蒼志は残り三ヶ月とも言われる余命をただ過ぎ去るままに生きていた。
定期検診で病院に行った際、祖母の見舞いに来ていたのだというクラスメイトの杏珠に出会う。
杏珠の祖母もまた病気で余命三ヶ月と診断されていた。
「どちらが先に死ぬかな」
そう口にした蒼志に杏珠は「生きたいと思っている祖母と諦めているあなたを同列に語らないでと怒ると蒼志に言った。
「三ヶ月かけて生きたいと思わせてあげる」と。
けれど、杏珠には蒼志の知らない秘密があって――。
君だけのアオイロ
月ヶ瀬 杏
青春
時瀬蒼生は、少し派手な見た目のせいで子どもの頃からずっと悪目立ちしてきた。
テストでカンニングを疑われて担任の美術教師に呼び出された蒼生は、反省文を書く代わりにクラスメートの榊柚乃の人物画のモデルをさせられる。
とっつきにくい柚乃のことを敬遠していた蒼生だが、実際に話してみると彼女は思ったより友好的で。だけど、少し不思議なところがあった。
深海の星空
柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」
ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。
少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。
やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。
世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。
ここは世田谷豪徳寺
武者走走九郎or大橋むつお
青春
佐倉さくら 自己紹介するとたいていクスっと笑われる。
でも、名前ほどにおもしろい女子じゃない。
ないはずなんだけど、なんで、こんなに事件が多い?
そんな佐倉さくらは、世田谷は豪徳寺の女子高生だぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる