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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【8−16】

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 思わず声をあげて、立ち止まってしまってた。
 それほどの衝撃だったからなんだけど。奏人がすぐに道の端に誘導してくれて、後ろからくる人とぶつからずに済んだ。そして、苦笑気味の表情が向けられた。
「あぁ、驚いたよね。やっぱり」
「……うん」
「俺たちもね、すごく驚いたんだ。なにせ突然だったし、おまけにまだ小学生だろ? 特に、女子たちが大げさに騒いでアイツを質問責めにしたりね」
 それは、そうだろうと思う。小学一年生でお友だちの名字が突然変われば、好奇心なんて抑えられないよね。
「都築も、最初は興味本位の質問は無視してた。けど、どこの世界にも事情通の親が居て、そんな親に限って口が軽いから、自分の子どもの前で都築の家で起こったことを話してしまったんだ。『あそこの母親は愛人から上手く正妻におさまった恥知らずな女だ』ってね。その噂は瞬く間に広まったよ。その本当の意味は理解できてなくても、悪意を上乗せしてね」
「そんな……ひどい」
「都築はすぐに孤立して、陰口と嫌がらせの対象になった。けど、転んでもただで起きるヤツじゃないから、その相手と喧嘩になってね。余計に孤立したんだ。――涼香。瀧川たきがわひかるって名前の女子、知ってる?」
「……っ、うん! バレー部の!」
 話の途中で、いきなり出てきた女の子の名前。その唐突さと、奏人の口から出たことの両方に戸惑ったけど。ついさっき、その相手の姿を思い浮かべていたばかりだったから勢い込んで答えた。

「あぁ、知ってた? 瀧川のこと」
「うん」
 同じクラスになったことはないけど、『バレー部のひかるちゃん』のことはよく知ってる。
 ハスキーな声で大人っぽい見た目なのにいつも明るく笑ってる、すらっと背の高いショートカットの女の子。けど、どうして奏人があの子の名前を……。
「その時、皆から都築をかばったのは、ふたりだけだった。瀧川と、――もうひとりは歌鈴《かりん》だよ」
「……っ!」
「都築を加えたこの三人は、幼稚舎の頃からの親友だったんだ」
 歌鈴ちゃん……。
 奏人の妹の歌鈴ちゃんと都築さんが、親友?
「歌鈴ちゃんと……」
 奏人の双子の妹、歌鈴ちゃん。血液の病気で中一の冬に亡くなったと聞いたけど、その歌鈴ちゃんと都築さんが親友だったなんて……。

「うん。幼稚舎の入園式で、隣同士になったのが出会いでね。都築は、その頃『手嶋てしま』って姓だったんだけど、名前順で三人が並んだことから意気投合して、それ以降、仲良く遊ぶようになったんだ」
 あ、ほんとだ。言われてみれば、三人とも名字が『た行』だわ。
「歌鈴は、小学校にあがる頃にはもう発症していて。でも、その頃はまだ体調が良ければ俺と一緒に学校に通ってたんだ。でも、登校しても保健室で過ごすことが多かったし、大きな行事はほぼ欠席だったりで、クラスメートとは馴染みにくかった。歌鈴のほうから近づいていっても、腫れ物に触るようにされるか、可哀想な目で見られるかのどっちかだったしね。まぁ、遊んでる最中にいきなり鼻血を出すような相手には、小学生の反応としては当たり前だよな」
 私と繋いでる奏人の指に、かすかに力が込められた。その時の光景を思い浮かべてるんだ。
 正面少し上。たぶん夜空の星を見ながら話してる奏人の綺麗な横顔を見上げて、その次の言葉を待った。
「けど、都築と瀧川だけが、そんな目で見なかった。ただの、わりと多く鼻血を出す子、って程度の扱い方だったんだよ。歌鈴は、それが本当に嬉しかったんだ。――俺もね」
 淡々とした奏人の口調の中に、たくさんの感情が詰まってるように感じた。
 あたたかさと優しさ。せつなさと哀しみ。懐かしさと悔やみ。それから、愛おしさ。
 愛する家族との早すぎる別れを経験した奏人。その同じ想いを共有してるのが、都築さん、なんだね……。


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