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キミとふたり、ときはの恋。【第二話】

立葵に、想いをのせて【8−12】

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 わあぁ、勢いに任せて言っちゃった。今度こそ、全部。
 気のせいか、何だか身体が軽いし、胸の辺りもすっきり……ああぁ、でも――。
 どうしよう。奏人が無言だ。背中を撫でてくれてた手も、いつの間にか帯の上で動きを止めてる。
 あー、これは、あれよね。きっと、あれ。ドン引きって、こういう反応なのかしら。
 確かに、私の今の発言、イタかったわよね。
『私だけの奏人って、皆に言いたい』とか、自惚れやさんもいいところだし。

 うわ、ほんとにどうしよう。今頃恥ずかしくなってきたかも。取りあえず、この沈黙を何とかしなきゃだわ。
「はぁぁぁ……」
 緩く囲われた腕の中で、ほんの少し身じろいだ、その時――。
「涼香。君って、ほんとに……」
 大きな溜め息の後の小さな呟きを途中で切った奏人が、私の肩に顎を乗せてきた。脱力したかのように。
 え? この反応って、もしかしなくても確実に、ドン……引き……? やだやだ、どうしよう!
「かっ、かなっ……」
「ねぇ、涼香。もうひとつだけ、どうしても聞いてもらいたいお願いがあるんだけど、いい?」
「え?」
「俺、今ものすごく堪らない気分なんだ。だから、ここにもうひとつ、つけさせてくれない?」
 ここ、と言いながら、そろりとなぞられたのは、手首の朱。

「本当は唇に刻みたいところなんだけど、止まらなくなりそうだし。今は、目に見えるところがいいよね。だって、俺だけの涼香、でしょ?」
 もう、やだ。奏人こそ、堪らないじゃない。このタイミングで、同じ台詞で返してくるなんて。
 だから、馬鹿な私のすることは、ひとつしかない。
 ゆっくりと、奏人に向けて右手を差し出した。自分から。
「奏人?」
 こっちの手にも、つけて?


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